リトアニア、EU加盟国で初の中国との国交断交か

2021年9月3日付のロイター電(https://www.reuters.com/world/lithuania-withdraws-chinese-envoy-row-over-taiwan-2021-09-03/)によると、バルト三国の一つ、リトアニアは北京から大使を呼び戻して協議を行ったと発表した。ことの発端は、リトアニア外務省が7月20日、台湾が首都ヴィリニュスに駐在員事務所を開設すると発表し、その台湾事務所の名称を「リトアニア台湾代表部」にするとしたことある。欧米にある他の台湾代表部は、島の名称を避けて台北市の名称を使用している。たとえば、モスクワの事務所は、「モスクワ・台北経済文化協力調整委員会」と呼ばれている。なお、日本では、「台北駐日経済文化代表処」がそれにあたる。

中国側は8月に入って、リトアニアの駐北京大使の引き揚げを要求すると同時に、中国の駐ヴィリニュス特使を呼び戻すとしていた。中国側の反発の背景には、「一つの中国の原則」がある。台湾を一国であるかのように扱う、「台湾」の文字が入った機関の設置は認めがたいというわけだ。

 

EU加盟国で初の国交断絶か

今回の事態が注目されるのは、リトアニアがこのままいけば、EU加盟国ではじめて中国との国交断絶に踏み切るかもしれない点にある。米中関係が悪化するなかで、EUも少しずつ対中警戒を強めてきた。ウイグル人やチベット人などへの人権侵害でもEUは対中批判を強め、制裁措置をとるに至る。その結果、2021年5月には、長年交渉してきた貿易協定の批准が事実上停止状態となっている。

とはいえ、いまのところ、EU全体としては静観にしている。これに対して、米国政府は8月の段階で、米国国務省のネッド・プライス報道官は、「我々は同盟国であるリトアニアを支持し、中国の行動を非難する」とのべた。米国のアンソニー・ブリンケン国務長官は後に、「中国からの圧力に直面しているリトアニアに断固とした連帯」を表明した。

さらに、英、独、仏、オランダ、チェコ、スウェーデン、ウクライナの各議会外交政策委員会の委員長は、ヴィリニュスを支持する声明を採択した。「EUやNATO加盟国の問題に干渉することは、許容できる行為ではない」と書かれている。これに対し、中国外交部は、「強圧的な外交」を行っているとすれば、それは米国であるとした。

 

リトアニアと中国の関係

リトアニアと中国との関係が揺らぎはじめたのは、米中間のいわゆる「貿易戦争」が悪化してからである。2019年、リトアニアの国家安全保障部門は、はじめて中国を脅威として名指ししたという(「コメルサント」[https://www.kommersant.ru/doc/4974829]を参照)。当時のリトアニアのギタナス・ナウセダ大統領も、中国のリトアニアの港への投資を脅威と捉えていたという。その後、リトアニアで第5世代移動体通信ネットワーク(5G)の展開を計画していたファーウェイ社とのスキャンダルが発生し、リトアニアは「スパイ行為」だと非難するまでに至る。

2021年に入っても、関係悪化の傾向はつづいている。2月には、リトアニア議会の2つの委員会のメンバーが、「権威主義的共産主義」の中国におけるウイグル人の状況に関する決議案の作成を開始した。ドビレイ・シャカリエネ議員は、「北京の犯罪」について国際的な調査を求めることを約束した。そして3月、ヴィリニュスは秋に台湾に貿易経済事務所を開設する計画を発表したのである。5月、リトアニアは「17+1」の東・中欧・中国協力フォーラムから脱退し、「16+1」となったが、他の参加国にも同様の対応を求める事態にまでこじれていた。

 

脅しの中国外交

よく知られるように、中国共産党政権は台湾を中国の一部とみなし、内政問題としている。いま、中華民国を名乗る台湾の主権を認めているのは、世界でも20カ国に満たないと言われている。ほとんどがエスワチニ、ナウル、ホンジュラスなどの小国だ。ヨーロッパではバチカン市国だけが台湾を認めている。パナマは2017年に台湾との国交断絶に踏み切った。中国との貿易・経済関係が強まるなかで、中国は台湾との国交断絶を各国に促し、そうしなければ経済関係で揺さぶりをかけるといった脅しが中国外交の常套手段となってきた。

中国と比較的大規模な貿易関係をもちながら、対中関係の悪化で打撃を受けているのは、いまのところオーストラリアくらいだろうか。

いずれにしても、今後、EU加盟国がリトアニアと中国の関係悪化に対して、どのように対応するかが注目される。

 

 

 

 

 

 

 

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塩原 俊彦

(21世紀龍馬会代表)

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