宮崎正弘・渡辺惣樹著『戦後支配の正体 1945-2020』について

宮崎正弘・渡辺惣樹著『戦後支配の正体 1945-2020』について

いつものように、最近読んだ本の一つ、宮崎正弘・渡辺惣樹著『戦後支配の正体 1945-2020』(ビジネス社, 2020)について紹介しました。人に薦められて読んだ本ですが、興味深いことがいろいろと書かれていたので、その一部を紹介します。

 

チャーチルがトルーマンの背中を押した原爆投下

Michael Nieberg, Potsdam, Basic Books, 2015において、トルーマンの原爆投下の決断を後押ししたのがチャーチルであったことが明らかにされているという。1943年8月に開かれたケベック会談で、チャーチルとルーズベルトは英米共同プロジェクトである原爆開発の進め方とその使用原則について協議し、四つの合意に達していたのだと書かれています。

①開発された原爆は互いを攻撃するためには使用しない、②第三国に使用する場合、他方の国の同意が必要、③両国の同意がない限り第三国に開発計画にかかわる情報を流さない、④開発にあたっては米国が大きく負担することを確認する――というのがそれです。

この合意に沿って、広島・長崎への原爆投下は英国の容認のもとに行われたことになります。

渡辺は、「チャーチルが原爆を使わせたかったのは間違いないでしょう」と発言しています。

 

朝鮮戦争の引き金を引いたアメリカ

わたしは朝鮮の問題にあまり関心をもっていませんでした。この本のなかで、渡辺はつぎのように語っています(p. 70)。

「アメリカという国は「敵と味方を間違える名人」です。朝鮮戦争でも引き金を引く間違いを犯したのはやはりアメリカです。まず1950年1月5日に、トルーマンは「中国が台湾に侵攻しても、アメリカ政府は関与しない」と表明したかと思うと、翌週の1月12日に国務長官だったアチソンはいわゆる「アチソン・ライン」演説をして「アメリカの極東防衛ラインをアリューシャン列島から日本列島、琉球諸島、さらにフィリピン諸島」として、韓国と台湾をそのラインから外しました。

 これは決定的な政策の錯誤(確信犯という説もある)です。」

 

ネオコンとは何か

拙著『ウクライナ・ゲート』や『ウクライナ2.0』でも紹介した「ネオコン」について、渡辺がより明快な説明をしているので紹介します(pp. 86~87)。

「ネオコンとは何かですが、その始祖はヘンリー・ジャクソン上院議員(1912~83)、あるいはジーン・カークパトリック元国連大使(1926~2006)で、やはり両者とも民主党です。その主張は六つありますが、ネオコンの特徴をよく表しています。

 第一に「徹底的に反ソ」、トルーマンドクトリンを踏襲し、実際にソ連を潰しています(1992年)。第二に小国の政権を強引にでもレジーム・チェンジすることで、親米化させ傀儡政権化させる。これは東欧のカラー革命やアラブの春を想起すればいいでしょう。第三に先制攻撃は許される。第四に経済リベラリズム、つまり自由貿易推進で、トランプは保護貿易を唱えこれに真っ向からぶつかっています。第五にリベラル的社会政策の推進。アファーマティブ・アクションなどアイデンティティ・リベラリズムやポリティカル・コレクトネス(政治的正しさ)は相当に進んでしまった。最後の六番目ですが徹底的な親イスラエルがあります。トランプ政権登場前のアメリカ外交は忠実にこれを実行しています。」

ついでに、同じく渡辺はクリントン財団の批判を紹介しています。「クリントン財団(1997年設立)は表向きは国際慈善事業を促進するための寄付を募っていますが、実際は外国企業や要人に便宜を図ったり、開発途上国の資源開発をアメリカ企業が受注できるよう口利きしたり、アメリカ外交を「迂回買収」させるスキームで巨額の寄付を得ています」としています。さらに、つづけてつぎのように指摘しています(p. 94)。

「たとえば、アフリカのコンゴ民主共和国における鉱山開発、イランでの通信インフラ、コロンビアでの熱帯雨林開発、カザフスタンでのウラン採掘事業など。調査ジャーナリストのピーター・シュワイザーが「クリントン・キャッシュ」という本のなかで詳細にクリントン夫妻の「悪事」を暴露しています(詳しくは『アメリカ民主党の崩壊2010-2020』参照のこと)。たとえば、2014年度の数字は収入総額1億7780万ドルに対し、チャリティー事業に支出されたのはたった516万ドルというアンバランスなものです。しかしそうした事実を日本のメディアはもちろんアメリカのメディアも一切報じません。」

 

米国の対中外交

頭を整理するために、つぎの渡辺によるアメリカの対中外交の概括は役に立ちます(p. 97)。

「戦後アメリカの対中外交をざっと振り返ると、トルーマンドクトリンを受けて共産主義の封じ込めの一環として「中国封じ込め」(コンテインメント)からニクソン、カーターを経て「関与政策」に転換し、レーガン以後は、その中間的な「コンゲージメント」(封じ込めつつ関与する)政策に終始してきた。その結果、中国は付け上がり、オバマ政権のときには米国と太平洋を二分しようなどと豪語するようにまでなった。」

 

ペトロダラーシステム

地政学上の常識を確認しておきたいと思います。つぎの渡辺の指摘は重要です(p. 122~123)。

「キッシンジャーは世界最大の産油国であったサウジアラビアの王朝政権と交渉し、同国がイスラエルや他のアラブ諸国からの攻撃を受けた場合にはサウジ王家を守ると約束した。最新兵器の販売も認めた。その見返りに、同国の全石油取引をドル建てで行うこと、貿易黒字部分で米国債を購入することを約束させます(1974年)。米国はサウジと契約すれば他のOPEC諸国も追随すると踏んでいましたが、まさに思惑どおりになった。したがって、アメリカが一番嫌がるのは、このペトロダラーシステムの崩壊です。産油国にはドル以外での決済を決して認めない。」

このあと、地域通貨としての香港ドルの話が出てきます。宮崎の発言です(p. 126)。

「香港ドルは発見銀行が三つある。不思議でしょう。香港上海銀行、スタンダードチャータード、中国銀行。みんな独自のデザインの香港ドルを出していますが、発券銀行はそれに見合うだけのドルを香港金融管理局(HKMA)に預託しなければならないのです。」

 

世界史的視点の重要さ

わたしの30年来の友人、出口治明さんは『週刊文春』に「0から学ぶ「日本史」講義」を連載しています。彼の発想は、日本史などは本来存在せず、世界史の一部としてあるだけだというものでした。その意味で、日本を考える際、どんなに古い過去であっても世界史的視点を忘れてはなりません。その意味で、渡辺のつぎの指摘は新鮮でした(p. 158)。

「島原の乱は幕府の弾圧に対するキリスト教徒の反乱ではなく、その背景には、ポルトガルとオランダの対立、すなわち、カソリック対プロテスタントの信仰をめぐる戦いがあった。島原の原城に立て籠ったカソリック教徒を攻略できたのはオランダ船からの艦砲射撃があったからです。このことは海外の歴史書にははっきりと書かれていますが、進歩史観に立つ歴史観にはそぐわない。だから日本の学校教育からは抹殺され、「野蛮な徳川幕府が可哀そうなキリスト教徒を虐殺し弾圧した」という語りになっています。島原の乱は1637年に起きています。先ほどお話のあったカソリックとプロテスタントが血で血を洗う戦いを繰り広げた30年戦争の真っ最中ではありませんか。島原の乱は30年戦争の日本における局地戦であったとも解釈できるのです。世界史を知らずして日本史は語れない好例です。」

 

「復讐権」の話

最後に、目からうろこの話をしましょう。それは、「復讐権」の話です。渡辺の実に興味深い話を引用します(p. 183~184)。

「私は忠臣蔵じゃないけど、やはり復讐権は存在する、という立場を取りたいのです。そうでないと殺人をした犯罪者が精神鑑定だとか少年法だとかいろんなファクターを持ち出して、すぐに更生の時間を与えよという議論になる。しかし復讐権が存在するという立場をとると、被害者の復讐権はあるけれども、それを国家が取り上げている。だから国家は復讐の代行行為としての量刑を定める。犯罪者の更生作業に入るのは、恨み解消のあと、つまり復讐の気持ちを抑えることができる程度の量刑を加害者が済ませたあとです。この順番が大事です。

 なんでこんな話をしたかというと、原爆の問題にもつながるからです。アメリカが絶対に日本に原爆を持たせるわけがない、と私が考えるのは、アメリカは復讐権が存在すると思っている国だからです。もちろん法律では復讐は許されていませんが、国民の心には復讐権は国家に取り上げられたと思っている。したがって、アメリカに原爆投下できる復讐権をもっている日本には絶対核を持たせるはずがない、と私は考えます。だから日本の核保有論は復讐権のファクターを考慮しながら戦略を立てなければ実現性はない。私も日本が核保有をしたほうがいいとは思いますが、復讐権の存在を認めるかどうかで日米には隔たりがある。そうなると最終的には核シェアリングくらいしか落としどころがないのではないのか。」

 

60年以上生きているのに、まだまだ騙されてきた事実さえ知らなかったことがあります。その意味で、若者はもっともっと勉強しなければなりません。わたしも同じです。

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塩原 俊彦

(21世紀龍馬会代表)

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