米国外交政策のリアリズム回帰

独立言論フォーラムに連載中の「知られざる地政学」92回において、「リアリズムから見たウクライナ戦争の停戦・和平をめぐる問題点」が公開される予定である。すでに原稿は送付してしまったが、そこに書けなかった重要な内容について、ここで補足しておくことにした。

それは、J・D・ヴァンス副大統領が5月23日にメリーランド州アナポリスにあるアメリカ海軍士官学校の卒業式でのスピーチについてである。きわめて重要な内容が含まれていたからである。

 

ヴァンスの話:外交政策

米国の外交政策について、彼は、「国防と同盟関係の維持を、国づくりと外国への干渉に置き換えた外交政策には、長い試行錯誤があった。たとえその外国がアメリカの核心的利益とほとんど関係がなかったとしても、である」と指摘した。

そのうえで、「外交政策は変わりつつあり、それとともに、米国が軍事的に何を期待するかも変わりつつある。今、外交政策は変わりつつあり、それに伴い、米国が軍事的に何を期待するかも変わってきている」とした。

そうドナルド・トランプ大統領のもとで、米国の外交政策は明らかに変化しているのである。

 

リアリズム(現実主義)に立脚

そのうえで、なぜこのサイトに補足をかきたくなったかがわかる言葉を発した。「われわれは、リアリズムに立脚し、核心的な国益を守る戦略に戻りつつある」(We’re returning to a strategy grounded in realism and protecting our core national interests.)というのだ。これは、脅威を無視するという意味ではなく、規律をもって脅威に対処するという意味であり、戦争に駆り立てるときは、非常に具体的な目標を念頭に置いて行うという意味である、とヴァンスは説明した。

つまり、このリアリズムに基づく政策こそ、新しい外交政策だというのである。その具体例としてヴァンスが示したのは、フーシ派への攻撃だ。

「非国家主体との長期にわたる紛争に我々の軍人を巻き込むのではなく、フーシ派にアメリカ艦船への攻撃を止めさせることでアメリカの航行の自由を確保するという、明確な外交目標を持って臨んだ。そして、それこそが我々が行ったことだ」、とヴァンスは語った。その結果、5月初め、フーシ派は攻撃をやめることに同意した。

ヴァンスは、「我々は、2年近くつづいていた紛争を停戦に持ち込むことができた」と胸を張った。「敵対する国々は、米国がレッドラインを設定すれば、それが守られることを知っている。そして、われわれが交戦するときは、目的をもって、優れた武力、優れた武器、そして世界のどこよりも優秀な人々とともに交戦する」というのがリアリズムに立脚した政策原理らしい。その目標は、米国の戦闘要員に交戦を求めることが、常に賢明かつ目的意識をもって行われるようにすることだと話した。

さらに、「陸、海、空、宇宙、サイバー空間におけるアメリカの支配の時代は終わった」とものべた。そして、アメリカとその軍隊は適応しなければならない、と付け加えた。

 

リアリズムは民主主義の輸出を禁じる

どうやら、リアリズムに基づく外交政策は米国の外交政策に大きな変化をもたらすのではないか。連載(92)のなかでは、つぎのように記述しておいた。

「これまでの米国の外交政策は、民主党出身の大統領であろうと、共和党出身の大統領であろう     と、基本はリベラルデモクラシーの堅持であったことに代わりはなかった。しかし、陸軍士官学校(通称ウェストポイント)の卒業生に向けて、「米軍の仕事は、ドラッグショーを主催することでも、外国の文化を変革することでも、銃を突きつけて世界中のすべての人に民主主義を広めることでもない」、と5月24日に語ったトランプ大統領は、リベラルデモクラシーの輸出を是としてきた米国外交そのものを否定している(NYTを参照)。私と同じくこの発言に注目したロシアの有力紙「コメルサント」は、トランプが米軍の主な任務は民主主義を広めることではなく、「いかなる敵も制圧し、米国に対するいかなる脅威もいつでもどこでも破壊する」ことだとのべた点に注目している。トランプは、すべての敵が米軍に対してもつべき敬意によって、これを達成できると考えているというのだ。」

 

私がみるところ、日本では、こうした大きな変化について明確に指摘し、日本の外交政策そのものもまた修正・変更を余儀なくされていることを真正面から論じている者がほとんどいない。だからこそ、ここで米国の大きな変化について解説した次第である。

 

(Visited 21 times, 1 visits today)

コメントを残す

サブコンテンツ

塩原 俊彦

(21世紀龍馬会代表)

このページの先頭へ