外交専門家の不勉強ぶりを明示しよう!:どうしてこんなにも低水準なのか

私は朝日新聞外報部に在籍したことがある。そのため、外報部OB宛てとして、主に訃報がメールされてくる。そんななかで、先般、「外交政策提言の共有について」というものが送られてきた。忙しい私としては、こんなものを読むつもりもなかったが、あまりにひどい不勉強で低水準の考察なので、ここに紹介し、徹底的に批判することにした。

そこにあったのは、「危機の時代における日本の対外政策―戦略的自立への道―」というものだ。筆者として、「外交安全保障研究フォーラム」が書かれており、「あとがき」によれば、「このペーパーは外交安全保障研究フォーラムの以下のメンバーが個人の資格において参加した検討会の内容を倉井高志元駐ウクライナ大使及び菊池努青山学院大学名誉教授が取りまとめたものであり、全てのメンバーがその内容全てに同意しているものではありません。文責はフォーラムの飯村豊代表及び橘優共同代表にあります」という。

 

“strategic autonomy”は「戦略的自立」ではなく、「戦略的自律」

メールには、「キーワードは「戦略的自立」。「トランプ世界」の混乱の中でどうすべきか、一つの参考になるのではないかと思い、みなさんと共有させていただくことにしました」と書かれている。たしかに、副題にも、「戦略的自立への道」とある。

だが、まったく不誠実なのは、「戦略的自立」なる概念が“strategic autonomy”の翻訳であるとの記述がないことだ。あるのは、つぎの記述程度である。

「「戦略的自立」とは、大国への依存を克服し、自国の国益と価値観に基づいて意思決定・行動することを意味する。孤立主義でも単なる独自外交でもなく、広範な国際関与を維持しながら、国家存亡にかかわる最終判断において自律性を保つ概念である。フランス(冷戦下の独自核戦略)、インド(非同盟主義からの転換)、EUなども同様の発想を採用してきており、今日、多くの国が米中対立・国際秩序の動揺の中で同様の戦略を模索している。」

論文の筆者は、概念自体を深く検討することを最初から怠っている。論文として、最低最悪と言わなければならない。日本語で読める参考文献としては、鈴井清巳著「【前編】EUの「開かれた戦略的自律(Open Strategic Autonomy)」について」がある。欧州で言えば、EU strategic autonomy 2013-2023 From concept to capacityが参考になる。

私に言わせれば、こうした基礎的な知識を紹介しないまま、いきなり「戦略的自立」なる、わけのわからない概念を持ち出すというやり方はほとんど狂気の沙汰だ。バカか不誠実か、似非か。こんな論文を書く者の能力を疑う。とくに、strategic autonomyを、戦略的自律ではなく、あえて戦略的自立と訳す理由がまったくわからない。

 

リベラリズムからリアリズムへ

ゆえに、この論文の中身を検討すること自体、ほとんど意味はない。ただ、中身もまたきわめてお粗末なので、批判しておきたい。なぜなら、こんなボンクラが偉そうに駄弁を弄している現実を知ってほしいからだ。

信じられないことに、この論文では、「リベラリズムからリアリズムへ」という、ドナルド・トランプによる国際政治理論の潮流の変化にまったく気づいていない。つまり、国政政治哲学について無知なのだ。

この問題については、「知られざる地政学」連載(131):国際政治理論からみた世界情勢()および連載(132):国際政治理論からみた世界情勢:欧州の政治指導者の偽善()において詳述した。なお、連載(132)の(上)では、つぎのようなかたちで「戦略的自律性」を登場させた。

「フランスのエマニュエル・マクロン大統領はMSCで、ロシアとの対話の再開について言及した。しかし、それは相当先の話であり、これまでのフランスとEUのその他の対ウクライナ政策は維持される。彼は、EUの戦略的自律性に関しても発言したが、「自律的な」EUが米国からの独立性を高めると同時に、ロシアに対して敵対的な姿勢を維持すべきであると想定されている。ゆえに、ヨーロッパ諸国は大胆になり、ロシアにもっと強く圧力をかけ、ウクライナを「絶対に明確に」支援するよう促したのだ。こうした姿勢は、これまでのリベラリズム路線を踏襲したものであり、自らのウクライナとの接し方が間違いであったことをまったく認めていない。はっきり言えば、政治指導者として「ボンクラ」なのである。」

これからわかるように、戦略的自律を唱えても、リベラリズム路線に留まることもできるが、リアリズムに接近することもできる。つまり、あくまでも外交戦略の基軸は、リベラリズムなんか、リアリズムなのかにあるのであって、「戦略的自律性」ないし「戦略的自立」なる概念を唱えても、国際政治理論上、ほとんど無意味なのだ。

 

バカバカしい提言

こんな調子だから、バカバカしい提言だらけだ。たとえば、「対露・欧州関係」において、「対露外交を米国の従属変数に陥らせず、ウクライナ問題では欧州との連携を軸に据える」とあるが、欧州におけるリベラリズムからリアリズムへの変化については何も指摘されていない。要するに不勉強の極致なのだ。

もう時間がないのでこれ以上は書かない。こんな不勉強で皮相な分析しかできないバカどもが日本の外交に影響を与えようとしているのかと思うと呆然とする。

 

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塩原 俊彦

(21世紀龍馬会代表)

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