ディスインフォメーションⅤ

ディスインフォメーション Ⅴ

塩原 俊彦

 

Dishonest Abeによるディスインフォメーション(disinformation)の怖さを想像してみよう。わたしはかれによるいまでもつづいているディスインフォメーションがプーチンのそれに似ていると指摘した。しかし、それはリンドン・ジョンソンやジョージ・W・ブッシュというという米国大統領のやったこととも似ている。

 

ジョンソンはジョン・F・ケネディ暗殺によって大統領に就任した人物だが、トンキン湾事件をでっち上げた人物として知られている。1964年8月、ベトナムのトンキン湾を巡視中の駆逐艦が北ベトナムの魚雷艇攻撃を受けたことを名目にジョンソン大統領はいわゆる「北爆」に踏み切った。さらに、議会に対して、「さらなる侵略を防ぐために必要なあらゆる手段をとる」権限を大統領に与える決議を求め、圧倒的多数で認められた。「トンキン湾議決」と呼ばれるものだ。

 

しかし、1971年6月、ニューヨーク・タイムズは「ペンタゴン・ペーパーズ」と呼ばれる機密文書を暴露し、トンキン湾事件が米国によって仕組まれた「でっち上げ」であったことを明らかにした。当時のロバート・マクナマラ国防長官もこれを認めたし、2001年にはジョンソン大統領とマクナマラ国防長官の電話会談の内容も公開となり、トンキン湾事件がベトナム戦争開始の口実とされたことがわかっている。トンキン湾事件当時の米国のマスメディアは政府の情報を垂れ流すだけで、政府自体が発したまったくの「でっち上げ」に騙されるばかりか、その情報を検証することなく無批判に広範に報道することで、その情報の信憑性を高めて政府の戦争開始に手を貸したことになる。

 

この例は米国政府によってまったくの虚偽がでっち上げられたものだが、ジョンソンとマクナマラの電話内容がしっかりと残されていたことで真実がわかった。これこそ公文書の役割だ。真実が必ず明かされるからこそ、権力者はよほどことがないかぎりでっち上げはしないはずだということになる。

 

しかし、Dishonest Abeはこの常識を破壊した。かれ本人が公文書改竄を指示したわけではないにしろ、改竄が起きてしまった事実は重い。

 

ディスインフォメーションの破壊力

Dishonest Abeのディスインフォメーションこそ元凶であることはこのサイトですでに何度も指摘した。そして、Dishonest Abeはいま現在も「意図的な不正確な情報」を垂れ流している。

 

Dishonest Abeによって二度にわたって発せられた2017年2月の予算委員会でのディスインフォメーションをもう一度紹介しておこう。

 

「この事実については、事実というのはうちの妻が名誉校長になっているということについては承知をしておりますし、妻から森友学園の先生の教育に対する熱意はすばらしいという話を聞いております。
ただ、誤解を与えるような質問の構成なんですが、私や妻がこの認可あるいは国有地払い下げに、もちろん事務所も含めて、一切かかわっていないということは明確にさせていただきたいと思います。もしかかわっていたのであれば、これはもう私は総理大臣をやめるということでありますから、それははっきりと申し上げたい、このように思います。」

 

「繰り返しになりますが、私や妻が関係していたということになれば、まさに私は、それはもう間違いなく総理大臣も国会議員もやめるということははっきりと申し上げておきたい。全く関係ないということは申し上げておきたいと思いますし、そもそも、何かそういうことが動いているかのようなことを前提にお話をされると、この小学校に通う子供たちもいるんですから、こういうことはやはり慎重にちゃんとやっていただきたい、このように思います。」

 

「一切かかわっていない」および「全く関係ない」という部分は「不正確」であり、まさにディスインフォメーションそのものだ。こんな不正確な発言を国会の場で行うところにDishonest Abeの真骨頂がある。皮肉なことに、こんな発言をするだけも公文書改竄という犯罪に手に染める公務員が現れ、不正確な情報を前提に衆院選まで断行されてしまったことになる。そして、自民党が圧勝し、憲法改正の直前までに至ってしまった。

 

ここでぜひ、想像してほしい。朝日新聞が公文書改竄の事実を報道しなければDishonest Abeが難なく自民党総裁選で勝利し、なおも日本国の総理大臣の座に居座り、加えて憲法改正にまでこぎつけたであろうことだ。

 

Dishonest Abeが長期政権になることを見込むと、多くの人間はDishonest Abeであってもすり寄ってしまう。法律違反までするのだ。だからこそ、自民党総裁の3選を認めるなどもってのほかのことであった。中国の習近平の憲法改正で、習近平の独裁化を恐れる論評が目立つ日本だが、わたしに言わせれば、Dishonest Abeはもう何年も前から「独裁化」していたのである。

 

国家転覆罪とDishonest Abe

ディスインフォメーションによって、すべての国民を騙し、国のかたちまで変えようとしたDishonest Abeはまさに国家転覆罪に相当することをやってきたと極論することさえできる。そうわたしは思っている。そうした「犯罪」に法律を破ってまで協力した者が財務省にいたことになる。脱法行為まではしていなかもしれないが、政府部内にも官庁にも新聞社にもテレビ局にもDishonest Abeにすり寄っていた人物は数多く存在する。

 

こんな議論ができるほど、事態は深刻だ。にもかかわらず、財務官僚の犯罪ばかりに焦点があてられている。こんな国だからこそ、Dishonest Abeのディスインフォメーションを見破れずにまんまとその術中にはまりつづけてきたのかもしれない。

 

ディスインフォメーションへの対策

まったく別の真実を話そう。いま現在、ある出版社は『地政学辞典』らしきものを編纂途上にある。その編集者からわたしのもとに「サイバー空間の脆弱性」という項目を書いてくれとの依頼があった。この要請を快諾し、すでに原稿は送付したが、この際、わたしは「ディスインフォメーション」の項目がないのはまずいので、この項目を入れるように提案しておいた。しかし、その提案から1カ月たっても返事はない。

 

ディスインフォメーションはもともと、ソ連によって世界中に仕組まれた工作活動の一つであり、その意味で地政学に深くかかわっている。にもかかわらず、『地政学辞典』で紹介できないとすれば、日本の学者の知的レベルの低さを物語ることになるだろう。

 

学者だけがレベルが低いわけではない。官僚も同じだ。わたしはすでにこのサイトで、日本の官僚が無能であることを指摘した。ディスインフォメーションについても、日本の官僚のバカさ加減を具体的に示しておこう。

 

日本政府は2013年12月17日、「国家安全保障戦略」なるものを閣議決定した。「情報機能の強化」はうたわれているのだが、ディスインフォメーションに対する備えといった意識はまったくない。2015年9月4日には、「サイバーセキュリティ戦略」が策定された。しかしこの段階でも、サイバー空間を利用したディスインフォメーションにどう対処すべきかといった発想自体がなかったのである。

 

日本の官僚も政治家も学者もどうしてこれほどバカなのか。わたしに言わせれば、自らを愚かであると意識してまじめに学ぼうとする者が少なすぎる。あえてこれ見よがしに書けば、「日本国にThe Economistを35年以上読み続け、世界の潮流の変化に目を凝らしてきた者はいないのか、わたしのように」、ということになる。

 

2018年夏には、「新・サイバーセキュリティ戦略」ができると聞いている。このなかにもディスインフォメーションへの対策は盛り込まれないのではないか。わたしはそう危惧している。そうした状況がつづけば、日本国民は海外からのディスインフォメーションにも国内からのディスインフォメーションにも騙されつづけることになるだろう。そうならないためには、とにかくDishonest Abeによるディスインフォメーションを明らかにし、ディインフォメーションへの関心を国民全体に広げなければならない。

 

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塩原 俊彦

(21世紀龍馬会代表)

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