しっかりしろ、朝日新聞

しっかりしろ、朝日新聞

先輩として、10月4日付朝日新聞朝刊に載っている「超高速の5G開始、来年に前倒し」なる記事に対して苦言を呈しておきたい。徳島慎也なる記者が書いた記事だが、「しっかり勉強しろ」と言いたい。ついでに、こんな記事を通しているデスクなる人物も不勉強であると批判したい。ぼくは、朝日新聞の外報部だけでなく経済部にも在籍していたから思うのだが、本当に不勉強 極まりない。「もっと世界をみて記事を書け」と強調したい。外報部の記事も相当にひどい記事が目立つけれど。

こう書いても、なにもわからないかもしれない。なにが言いたいのかというと、「ネットワーク中立性」とか「ネット中立性」という原則が日本でどうなろうとしているのかという論点がまったくふれられていない点が問題なのだ。

ネット中立性とは、インターネット・サービス事業者(Internet Service Provider, ISP)や各国政府がインターネット上のコンテンツを平等に扱うできであるとする考え方である。「言論の自由」とネット中立性を結びつけて、ISPを中央集権的に強力に規制することで中立性を守ろうとする主張だ。すでに、ケーブルテレビ事業者はTV番組をバンドル(選別してパッケージ化)している。逆に、ネット中立性への反対者は、ISPへの厳しい規制はネット上のイノベーションを阻害するとしている。

こうした動きに対して、2014年11月、当時のオバマ大統領は、①オープンで自由なインターネットを強く支援、②米連邦通信委員会(FCC)がオープン・インターネット規則(ネット中立性のこと)を制定する、③インターネットが米国の経済、社会にとって不可欠であるため、規則が必要――との認識を示した。

だが、トランプ政権誕生で、共和党色を強めるようになったFCCは新委員長に選任されたアジト・パイのもとで、ISPのネットワーク投資に悪影響をあたえる規制緩和の必要性が説かれるようになる。その結果、2017年12月14日、新規則「インターネットフリーダム命令」が採択されるに至る。基本的に市場競争と連邦取引委員会(FTC)による規制によってネット中立性を維持する方針が示され、開示義務やFTCの事後的規制下でも、競争メカニズムが十分に機能すれば、ネット中立性の侵害は起きないとしたのである。とくに、有償優遇措置が解禁され、高品質のサービス提供が可能となったことが重要である。

なぜなら、「第五世代移動通信システム」である、いわゆる「5G」が利用可能になると、特定の者にだけ超高速でのネット利用などの高度サービスが可能となるからだ。4Gの段階では、動画の閲覧がしやすくなり画質も上がったが、5Gになると、超高速の情報伝達速度をいかして自動運転や遠隔地医療も可能になる。高額の利用料を支払った者にだけこうした5Gの特徴をもった有償優遇措置が提供できるのである。これは、いわば分散型のネットワークを指向する動きであり、中央集権的にネット中立性を死守しようとする動きと対立している。

紹介した徳島の記事では、携帯電話会社が5Gサービスを提供するのが当然のように書かれているだけで、そのもとで、日本におけるネット中立性がどうなろうとしているかについてなんの説明もない。しかし、実際にはこの問題はきわめて時事的な問題として世界中で問題化している。

たとえば2018年9月末、カリフォルニア州のジェリー・ブラウン知事はネットワーク上のコンテンツに対する遮断、減速、差別を禁止した州法に署名した。これに対して、米司法省はすぐに同州法の差し止めを求めて提訴したほか、10月に入って、ISPが加盟する四つの業界団体も同法の差し止めを求める訴訟を起こした。

つまり、ネット中立性をどう守るべきなかは、議論すべき重大問題なのだ。そうであるならば、新聞報道においてもこの論点をきちんと紹介する必要がある。この重大な論点についてまったくふれていないという点で、徳島の記事は落第点であると指摘しなければならない。記事をよんで掲載を判断するデスクもまたその仕事を果たしていない。はっきり言えば、無能である。もっとしっかりと勉強しなければ、優れた記事を掲載することはできないのである。

その結果、ネット中立性という重大問題が国会の場できちんと議論されるようにはなかなかならないという日本の不幸につながっている。マスメディアの無知は日本全体の無知につながっている。

ぼくは拙著『なぜ「官僚」は腐敗するのか』において、国連腐敗防止法やサイバー空間規制にまつわる日本の無知を指摘した。官僚、政治家、学者、マスメディアの構造的無知という大問題が生まれているのだ。

それにしても、後輩のつくる新聞紙面をみていて気になるのは、本当に程度の低い記事が目立つことである。AIが問題になるなかで、AIがどんなもので、どのように倫理にかかわるのかといった問題についてもまったくと言っていいほど、紙面化されない。「キラーロボット」に倫理をどう教え込むのか。こんな研究が世界で進んでいるのだが、こんなことすら紹介できないマスメディアでは心底軽蔑されても仕方あるまい。

ぼくは、日本経済新聞にも在籍したことがある。残念ながら、経済をめぐる報道はいまでも日経のほうが優れている。その理由の一つは、朝日新聞の経済部記者・デスクの不勉強によるところが大きいと思う。ぼくに教えてほしいのであれば、教えてやらないわけではないが、まずは、自らが不勉強であることをよく自覚して、多くの人々に尋ねるという基本姿勢を取り戻してもらいたい。

本当に、困った状況なので、今日は朝日新聞への批判をこのサイトにアップロードした次第である。

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塩原 俊彦

(21世紀龍馬会代表)

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