「プーチン3.0」をめぐって:唾棄すべき池上彰

「プーチン3.0」をめぐって:唾棄すべき池上彰

「「プーチン3.0」を展望する」と題された論考が2月4日から朝日新聞の「論座」サイトにアップロードされます。ここではまず、この内容に関連する、池上彰の「プーチン大統領、「院政」狙いか」という記事(『週刊文書』2020年2月6日号)を厳しく批判したいと思います。

わたしは池上彰を信用していません。ウクライナ併合をプーチンによる仕業のように理解している人物にそもそもロシアを語る資格などまったくないと思います。はっきり言えば、わたしの書いた『ウクライナ・ゲート』や『ウクライナ2.0』をまったく無視して、日本の外務省の無能な官僚から聞いただけのような一知半解な論説をばら撒いてきた責任は大きいと指摘せざるをえません。ロシア語も読めずにロシアのことを書く勇気は称賛に値するかもしれませんが、自分の能力に自信がもてないときにはもっともっとよく学ばなければならないと、わたしは思います。

こんな人物であるにもかかわらず、池上は、今度はプーチンが院政をねらっているのではないかという記事を掲載しました。わたしはもう20年以上、『週刊文春』を購入しているので、ついでにこの記事に目をとめたのですが、案の定、おかしなことが書かれています。

 

「プーチン党首」のふしぎ

プーチンは2020年1月15日の年次教書演説のなかで、憲法改正に言及しました。そして、20日には早くもそのための法案が下院に提出されました。憲法修正案が具体的に明示されたわけです。これは、2024年に大統領任期が切れるプーチンがその後も権力を維持するために仕組んだものですが、この憲法改正をめぐって池上はつぎのように書いています。

「大統領の力が弱まり、議会の力が強くなれば、議会を牛耳ればいいということになります。」

この前提にたって、与党「統一ロシア」の党首にプーチンが就任し、「議会でプーチン党首が力を発揮し、権限が縮小された大統領をコントロールできるというわけです」としています。

 

「議会を牛耳る」難しさ

この見たてが間違っていることをこれから説明してみましょう。まず、かれがいうロシア連邦議会には上院と下院があり、その性格が違います。池上は上下院の二つを牛耳ることを前提に議論しているのでしょうか。たしかに二つとも支配下におけば、大統領をもコントロールできるかもしれませんが、実際には、上院と下院ではその構成がまったく異なっています。したがって、「議会を牛耳る」といっても簡単ではありません。

少し丁寧に説明しましょう。現行憲法の第95条では、「連邦ソヴィエト(上院のことです)は、ロシア連邦の各構成体から二人の代表者によって構成する:すなわち、国家権力の代表制機関および執行機関から一人ずつ」と書かれています。しかし、憲法改正案では、「連邦ソヴィエトは、ロシア連邦の各構成体から二人の代表者によって構成する:すなわち、国家権力の法的(代表制)機関および執行機関から一人ずつ」とされ、さらに、「ロシア連邦大統領によって任命されるロシア連邦の代表者」が加えられました。「それらは連邦ソヴィエトメンバー(ロシア連邦上院議員)の10%を超えない、ロシア連邦構成体の国家権力の法的(代表制)機関および執行機関の代表者」と規定されています。つまり、ここでは大統領が任命できる議員が若干ながら増えていることになります。

しかも、憲法改正案では、連邦ソヴィエト(上院)と国家ドゥーマ(下院)がもつ憲法上の権限に興味深い違いが導入されることにいます。現行憲法では、大統領は首相の提案に従って政府の副首相、大臣を任命したり解任したりできますが、改正憲法案では、下院によって承認された副首相および大臣(権力執行機関の指導者を除く)を任命・解任することになっています(同指導者は上位諮問後に任命・解任される)。つまり、

改正憲法では、下院によって承認された権力執行機関の長に対する任命・解任の手順に差を設けているのです。ロシアの場合、連邦保安局や連邦警護局のような権力執行機関の指導者は国家運営上の要ですから、きわめて重要です。こうした機関の任命方法を改正憲法案で改めようとしている点も重大な変化であると考えるべきなのです。

 

ゴスソヴィエトを論じない池上

このように、池上の議論は乱暴すぎます。

もう一つおかしいと感じるのは、「議会でプーチン党首が力を発揮し、権限が縮小された大統領をコントロールできるというわけです」という推論部分です。かれは、憲法改正案に書かれている「国家ソヴィエト」(ゴスソヴィエト)の憲法上の機関としての創設という部分をまったく無視しています。したがって、このゴスソヴィエトを主導する立場に立てれば、大統領をも凌駕する権限をもてるかもしれないという部分をまったく考慮していません。ゆえに、「議会でプーチン党首が力を発揮する」ようになっても、ゴスソヴィエトを握らなければ、大統領をコントロールできそうもないのです。つまり、池上はプーチンの行おうとしている改革をまったく理解していないと指摘しなければなりません。

 

ゴスソヴィエトの重要性

わたしの「論座」の記事には、「ゴスソヴィエトを通じた新しい統治をめざすか」という副題がついています。今回の憲法改正案でもっとも重大なのは、何といってもゴスソヴィエトなのです。この重要性を理解してもらうために、ロシアにおいて「ソヴィエト」という言葉がいかに重要なのかを丁寧に説明するために、「「ソヴィエト」の重⼤性」という見出しを立てて説明していますから、その部分をぜひ読んでみてください。

 

バカに騙されるな

わたしが言いたいのは、池上彰のような人物に騙されるなということです。自分がバカであることを知っているわたしは、できるだけ多くに学んで考えることを常に心がけています。これに対して、自分の愚かさに気づかない者は勉強することなく詭弁を弄することになるのです。その意味で、まったく不勉強なバカの典型が池上彰ということになるでしょう。こんなバカがテレビで嘘や間違いを撒き散らし、日本国民の多くを洗脳しようとしているかと思うと、かれおよびテレビ局を厳しく断罪したくもなります。まあ、日本のテレビ報道は本当に見るに値しないものがほとんどです(わたしはテレビ東京の報道だけを興味深く視聴しています)。

というわけで、池上彰に惑わされないように苦言を呈してみました。

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塩原 俊彦

(21世紀龍馬会代表)

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