ハンガリーの選挙結果と社説
4月12日に実施されたハンガリーの総選挙の結果、オルバン政権が敗れ、政権交代が16年ぶりに行われる。この結果について、さまざまな論評が加えられている。そこで、少しだけ暇な時間ができたので、そのいくつかについて紹介しつつ、批判してみたい。
バカ丸出しの中日・東京新聞の社説
20日に公表された中日・東京新聞の社説はバカ丸出しの内容であった。ハンガリーについて、ほとんど何も知らないとしか思えない空疎な論評なので、中身を紹介することすら憚られる。一つだけ例示しておくと、「EUにとってオルバン政権はウクライナ支援の足かせだったため、EUによる900億ユーロ(約16兆円)の巨額融資も実現にめどが立つことになる」というのは断定的にすぎる。NYTの社説が「マジャール氏は、ウクライナへ軍隊や武器を送らないと約束した」と書いている通り、マジャールはそう簡単に親ウクライナ政策をとるわけではない。
WPの社説もつぎのように記述し、マジャールの本質をしっかり報道している。
「特筆すべきは、マジャールがオルバン首相の国境フェンスの維持を誓い、EUの移民受け入れ割当に強く反対した一方で、LGBTQ+の権利については沈黙を守り、ウクライナ問題についてはほとんど言及しなかった点だ。彼の反汚職メッセージは、フィデス党の農村部の支持基盤に深く浸透するよう設計されていた。」
産経新聞の社説もひどい。「親露路線が否定されたことで、対ウクライナ政策は大きく見直される見通しだ。マジャール氏は「ウクライナ戦争の停止」をプーチン氏に求めると述べた。ウクライナは侵略の被害者であり、妥当である」というのだが、こんな主張をすること自体、まったく間違っている。
読み応えのあるNYTの社説
先のNYTの社説は読み応えがある。そこで、ここでは、NYTの社説だけ、特別に詳しく論評してみよう。
「トランプ主義(Trumpism)を打ち破る方法はこうだ」というタイトルが示すように、NYTはマジャールの勝利を手本にして、米国での選挙でTrumpismに一矢報いる方法について論じている。ゆえに、NYTは、「オルバン氏の台頭とその権力の行使は、長い間トランプ氏の手本となっていた。今や、オルバン氏の失脚は、民主党や、権威主義的な右派の脅威を打ち破ろうとしている他のあらゆる政党にとっての手本となり得る」と書いている。
NYTは、「決定的なのは、マジャール氏が汚職を選挙戦の核心的な争点としたことだ」と指摘している。彼は20年以上、オルバンのフィデス党の党員として活動し、国営機関で要職に就いていた。だが、マジャールは2024年初頭、少年への性的虐待を行ったコネのある元高官に対する政府の恩赦をめぐるスキャンダルに抗議してフィデス党を離党し、ティサ党に加わり、党首にまで上り詰めたのであった。
NYTが優れているのは、つぎのような記述があるためである。日本の大多数のマスメディアが報じている内容にはない、マジャールの本質に迫っているからだ。
「彼(マジャール)は自らをナショナリストとして描き、現地に住むハンガリー人への扱いを理由に、スロバキア大使を追放する可能性を示唆した。彼は、オルバン首相の過去の対立候補たちが見過ごしていた地方で選挙運動を展開した。マジャール氏は、ウクライナへ軍隊や武器を送らないと約束した。彼はブダペストでのプライドパレードへの参加を辞退したため、オルバン氏が彼をLGBTQ活動家の言いなりだと描くのは難しくなった。
世界中の最近の選挙を左右してきた移民問題について、マジャール氏はオルバン政権が課した制限よりもさらに厳しい規制を求めた。彼は国境のフェンスを維持し、外国人労働者受け入れプログラムを廃止し、欧州連合(EU)域外からの外国人労働者を一切受け入れないとのべた。ティサの政党綱領は、外国人労働者が「賃金を引き下げ、不動産価格を吊り上げ、社会問題を引き起こす」と主張した。(米国とは異なり、欧州では移民の犯罪率が現地市民よりも高い傾向にある。)移民問題は、主流派の政治家が有権者の意向とは大きく乖離し、有権者が望むよりもはるかに多くの移民を受け入れているため、多くの国において当選の可否を左右する重要な課題となっている。」
つまり、マジャールはあくまで国内問題(腐敗、景気後退、移民排斥)を大々的に取り上げて勝利したのであり、彼の勝利は決してリベラル派の勝利を意味しない。
もっとも優れた記事
私がもっとも優れた内容の記事であると評価しているのは、エレーナ・ゴルバチョワが書いた「ハンガリー流のプラグマティズムのレシピ」という記事である。
たとえば、彼女はつぎのようにマジャールのティサの政策を紹介している。
「「ティサ」の政策綱領には、前任者たちの政策をそのまま引き継いでいる項目もいくつかある。それは移民問題――この点では「フィデス」との対立はない――およびウクライナ紛争に対する姿勢に関するものだ。オルバンと同様、マジャールもウクライナ軍への武器供与に反対しており、ウクライナのEU加盟を望んでおらず、また、ハンガリー系少数民族の権利が侵害されているとしてキエフを非難している。さらに、マジャールは、ハンガリーはこの紛争から、そして他のいかなる紛争からも距離を置くべきだと常に強調している。」
つぎの彼女の結論部分も熟読してほしい。
「マジャール政権下のハンガリー自体が政策を根本的に転換する可能性は低い。ロシアのエネルギー資源を、自国の不利益になるような形で即座に放棄することは絶対にないだろう。欧州の誰かが期待しているような急激な転換は起こらないだろう――とはいえ、ハンガリーは間違いなく、欧州の基準が意味するところにより沿うよう努めることになるだろう。」
エネルギー問題については、ハンガリーのロシアへの依存という現状を知っていれば、ロシアに反旗を翻すといった「急激な転換は起こらない」だろうし、即座に、これでの親ロシア路線を放棄することなど、「絶対にない」と言える。
私は、また、バカでマヌケで能天気な輩があまりにも多い現実に失望している。「もっと勉強しろよ!」である。



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