菅義偉首相の値下げ要求の裏側に総務省・3大キャリアの結託:携帯電話料金問題の核心は3大キャリアにeSIMのフルサービスを義務づけることだ

あまりマスメディアの裏側で起きたことを紹介すべきではないかもしれない。しかし、少しだけ残念なので『週刊文春』(2020年9月24日号)の記事のために受けた取材のうち、記事に紹介されなかった部分についてここで解説しておきたい。何の話かというと、「「ドコモ口座」メガバンクでも「預金不正引き出し」」という記事のなかに、筆者のコメントが登場するのだが、短い記事のなかでは、もっとも重要な問題がふれられていない。そこで、どんな取材を受け、どう答えたかをここで公開しておきたい。

なぜかというと、テレビ局だけでなく、テレビ局をかかえている新聞社は総務省を慮って総務省や総務大臣だった菅義偉を真正面から批判できずにいるからだ。そんなしがらみのない『週刊文春』には今後も期待しているが、なにしろ短いスペースで問題の核心に迫るのは困難だから、ここで解説しておきたいのだ。

 

二つの重要質問

記者から受けた質問のうち、主要な質問は以下の2点だった。

1)ドコモのお役所体質について

2)元総務相菅官房長官(当時)との携帯電話会社との攻防戦(料金引き下げ等)について

 

筆者はすぐに下記の内容を返信した。

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> 1)NTT時代は電話回線という有線部門が圧倒的に力をもち、優秀な人材も集中していた

> 。無線部門は残念ながら、優秀な人材が多いとは言えない状況だった。急速に拡大する

> 無線部門で偉くなった人物のなかには、はっきり言えば、経営者に不適格な「でくの坊

> 」が少なからずいる。それが、官僚的で閉塞感のある社内体質を作り出している。無能

> な人物は自分の無能を隠すために、官僚的な権威主義にすがらざるをえないからである

> 。

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> 2)基本的に、民間企業の価格設定に政府が注文をつけること自体がおかしい。政府に必

> 要なのは、競争環境の整備であり、そのためにはeSIMの個人サービス解禁を促すといっ

> て施策が不可欠になる。キャリアが菅の圧力に屈しているのは、eSIMなどの問題で弱み

> があるからだ。キャリアによる3社寡占はきわめていごこちのいい状態であり、こうし

> た状態を保つことを前提に総務省と3大キャリアは菅の顔を立て、多少の値下げに応じ

> ることになるだろう。しかし、それでは健全な競争環境を整備するという政府の役割を

> 果たしたことにはならない。

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問題の核心はeSIM

とくに大切なのは、「価格を下げろ」という政府による脅しだ。利用者からみれば、菅を応援したくなるかもしれない。しかし、政府の果たすべき役割はあくまで競争環境の整備であり、携帯電話料金の値下げといった個別の脅しではない。

競争環境の整備という点でみると、総務省はこの仕事を十分には果たしていない。eSIMで可能な個人へのフルサービス化を推進することで、個人が簡単にキャリアを変更できるようにすれば、寡占状態にある3大キャリア(NTTドコモ、au、ソフトバンク)の顧客が料金の安いMVNO(仮想移動体通信事業者)に移行できるようになる。しかし、そうなっていないところに最大の問題がある。

この問題については、「論座」において拙稿「携帯電話 再び「ガラパゴス化」を許す反省なき腐敗構造:個人利用者の利便性を無視した通信政策が繰り返される」(https://webronza.asahi.com/politics/articles/2020082700006.html)で論じたことがあるので、そちらを熟読してほしい。

 

やるべきことをせずにポーズだけの菅に騙されるな

IIJはMVNOとしてeSIMに基づく個人向けサービスを実施しているが、丸紅ネットワークソリューションズとNTTコミュニケーションズはeSIM提供が可能なのにサービスを足踏みしている。

他方、3大キャリアはeSIMの個人サービス利用を制限している。制度上は利用可能なのにもかかわらずである。後を追う楽天はeSIMの個人向けサービスを、音声電話サービスを含めて行っているのだが、3大キャリアはまったくeSIMサービスを個人向けに提供しないため、eSIM使用のスマートフォンの利用者がもっと安い料金の楽天やMVNOに移転できないのだ。おそらく3社による「談合」によって、利用者の囲い込みが行われているのだが、この問題を批判する者がほとんどだれもいない。

本来であれば、総務省は、競争環境を整備するために、3大キャリアに対してeSIM内蔵フォンについて個人のフル利用サービスを行うことを義務づけ、個人利用者が安価で安定的なキャリアを自由に選択できるようにすべきなのだ。こうすれば、MVNOの顧客は飛躍的に増加し、3大キャリアの寡占による価格維持が難しくなり、政府に言われなくとも料金値下げをせざるをえなくなるはずだ。

 

バカな政治家、それと結託する総務省と3大キャリア、それに癒着するマスメディアと御用学者

菅本人は3大キャリアと総務省の結託を知ったうえで、自分がパフォーマンスをあげたように見える値下げ要求を3大キャリアに強いているようにみえる(まあ、知らないかもしれない。単純に電波利用料の引き上げで脅せば、キャリアなどどうにでもなると思っているのかもしれない)。3大キャリアにとってもっても嫌なのは、既存の利用者でeSIMの利用が可能なスマートフォン保有者が簡単に安価なMVNOに移ってしまうことだ。そのため、eSIMの個人向けサービスを「シカト」しつづけているのだ。

だが、この競争促進政策の抜け穴について、国会や審議会の場で徹底的に追及している政治家も学者もいない。政治家の多くはマヌケでアホだから、問題の所在を理解していない。学者は、御用学者が審議会を独占し、業界のためにカネに誘導されて働いている。おまけに、総務省ににらまれたくないマスメディアはここで筆者が書いているような内容を報道できないでいる。

こうしたなかで、政府の競争環境整備という仕事がまったく歪められてしまっている。これが菅という政治家の真の姿なのだ。

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塩原 俊彦

(21世紀龍馬会代表)

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