政府は嘘をつく:問われるジャーナリズム、気球はどうでもいい、だまされるな

当たり前のことだが、政府は嘘をつく。したがって、政府の言い分を決して信じてはならない。重要な問題であればあるだけ、政府の発表には確認をとる努力をしなければならない。

なぜこんな話題を書いたかというと、ピューリッツァー賞の受賞歴のあるジャーナリスト、シーモア・ハーシュが2023年2月8日に公開した、「アメリカはいかにしてノルドストリーム・パイプラインを破壊したのか」という長文の記事(https://seymourhersh.substack.com/p/how-america-took-out-the-nord-stream?r=5mz1&utm_campaign=post&utm_medium=web)について、複数の米国政府報道官がノルドストリームを破壊したのはジョー・バイデン大統領ではないとして、この記事を否定したことで、この問題を一件落着にさせようとしているマスメディアを批判したいのである。

この問題については、このサイトでも取り上げたし、独立言論フォーラム(https://isfweb.org/post-15052/)にもアップロードしておいたので、そちらを参照してほしい。

 

エドワード・スノーデンの批判

尊敬するエドワード・スノーデンは2023年2月9日、実に的確なツイート(https://twitter.com/Snowden/status/1623364061877649408)をしている。

「歴史上、ホワイトハウスが担当し、強く否定された秘密作戦の例を思いつくか?あの「大量監視」騒ぎの他にね」というのがそれである。これは、米国政府が未確認飛行体としての気球を取り上げて、中国政府が「大量監視」のために米国領土を気球によって監視しているかのような騒ぎを巻き起こしていることへの皮肉を意味している。有体にいえば、米国政府は気球騒ぎを起こすことで、バイデンによるノルドストリーム破壊命令の話をなかったことにしたいのだ。

米国政府はハーシュの主張を「強く否定」した。だが、それがまったくの嘘であったことが何度もある。もちろん、米国政府だけでなく、日本政府も何度も嘘をついてきた。何しろときの首相が国会答弁だけで100回以上も虚偽答弁を繰り返してきたのだから。

 

キューバをめぐる大嘘

スノーデンは自分のツイートに、UPI通信の1961年4月17日付のワシントン電を添付している。そこに何が書かれているかというと、つぎのような内容である。

「ディーン・ラスク国務長官は本日、反カストロ派のキューバ侵攻はアメリカ国内から行われたものではないが、アメリカは参加者の目的に同情的であると述べた。ラスクは、キューバの問題はキューバ人自身が解決すべきものであるが、米国はこの半球における共産主義者の専制政治の拡大に無関心でないと述べた。」

ラスク国務長官は明らかに嘘をついていた。2012年4月17日付の「ニューヨーク・タイムズ」(https://archive.nytimes.com/learning.blogs.nytimes.com/2012/04/17/april-17-1961-the-bay-of-pigs-invasion-against-castro/)は、つぎのように書いている。

「1959年1月に政権を握ったマルクス主義革命家フィデル・カストロの政権転覆を狙ったピッグス湾事件は、1961年4月17日、約1500人のCIA訓練生がキューバへの侵攻を開始し、失敗した。」

これがのちにわかった真実であり、米国政府はこの事件に関与していたのである。ゆえに、この記事では、つぎのように記されている。

「タイムズ紙は、ディーン・ラスク国務長官が、米国がこの事態に関与することを否定したことにもふれている。しかし、米国は攻撃を組織していた。ドワイト・アイゼンハワー大統領時代の1960年にCIAが侵攻計画を策定し、1960年11月に当選したジョン・F・ケネディ大統領にその計画を提示したのである。選挙中、キューバに強硬な態度をとっていたケネディ大統領は、この計画を承認した。」

 

バイデン大統領が直接命令したことは100%確実

このように、米国政府高官であるラスクは公然と嘘をついていた。同じように、いまの政権の高官はみな嘘をついている可能性がある。

気球騒ぎのなかで明らかになったことがある。それは、米国では、気球一つを撃ち落とすにも、大統領が直接命令をくだすという事実だ。そうであるならば、ノルドストリーム爆破を命じたのは100%大統領自身であったことになる。米軍やノルウェー軍が関与しながらも、バイデンは知らなかったとしらを切る道が完全に塞がれてしまったことになる。

なぜこんなことを書いたかというと、ウラジーミル・プーチンにもよく似た不祥事があるからだ。それは、1999年のアパート爆破事件をプーチンが命じて行ったのではないかという疑いにかかわっている。ただし、こちらは、プーチンは知らずに、その取り巻きが勝手に行ったという言い逃れが可能だ。事実関係がベールに包まれているから、真実はわからない。

 

アパート爆破事件

説明しよう。井上達夫は『ウクライナ戦争と向き合う』の注(133頁)において、つぎのように書いている。

「本作品でも紹介された事例のうち、最も陰惨な影をプーチンに投じているのは次の事件である。無名の黒子的存在だったプーチンが2000年にロシア大統領選で勝利できたのは、第二次チェチェン紛争で民間人大量虐殺を厭わぬ大規模空爆でチェチェン独立派を潰滅させた「功績」によるところが大きい。第二次チェチェン紛争にロシアが突入したのは、1999年八月から九月にかけてモスクワなどロシア国内三都市で発生し、300人近い死者を出した高層アパート連続爆破事件がチェチェン独立派によるテロ行為とされ、それへの報復の大義を政府が掲げ、市民に対する無差別テロに怒ったロシア国民に熱狂的に支持されたからである。

 しかし、一連の爆破事件の捜査にあたった関係者の証言によると、未遂に終わった事件の現場で、FSBのものとみられる爆破装置が発見されたが、この事件はその後ロシア政府により隠蔽された。」

この記述は2015年に放映された米国の公共放送機関WGBHのドキュメンタリー作品「プーチンの道」をもとに書かれたものらしい(まあ、素人だから、これでもいいかもしれないが、本来であれば、私が2005年に刊行した『ロシア経済の真実』[183~185頁]において、あるいは、2007年のアレクサンドル・リトヴィネンコとユーリー・フェリシチンスキー著Blowing Up Russia: Terror from Withinおよびその日本語訳中澤孝之監訳『ロシア 闇の戦争』、さらに2008年の拙著『ネオKGB帝国』[71~73頁]くらいをしっかりと読んでからこの部分を書いてほしかった。要するに、素人であることを自覚していな不勉強な本がこの井上の本なのである)。

いずれにしても、私がモスクワで何度か取材しても、プーチンが直接アパート爆破を命じたかどうかはよくわからない。ただし、こちらも100%プーチンが命じたものだと私は思っているが。

 

ジャーナリズムの責任は大きい

スノーデンの指摘するように、気球の目くらましにつき合うのではなく、バイデンがノルドストリーム爆破を命じた事件について、ジャーナリズムはしっかりと向き合うべきだろう。おそらくNYTもWPもいま、バイデンの爆破命令について躍起になって事実関係を調べていると信じたい。

だが、ハーシュの主張をまったく報道しない姿勢は決して許容できない。きわめて蓋然性の高い内容をもつ論考である以上、それを紹介しつつ、その真偽の調査結果を報告するくらいの記事がなぜ書けないのか。

もし本当にバイデンがノルドストリーム爆破を命じたのであれば、それはいわば、ロシアへの宣戦布告と受け取られても仕方ないだろう。それほどまでして、ドイツをロシアから切り離したかったのか。あるいは、米国内のシェールガス開発業者に欧州のガス市場のシェアを拡大させることでその利益の拡大につなげたかったのか。ウクライナ東部において、バイデンが大統領に就任した2021年1月以降、ウクライナ側に挑発行為を繰り返し、プーチンを怒らせ、戦争に持ち込んだのはノルドストリームを爆破したかったからではないのか。いろいろと戦争好きなリベラルな覇権主義者バイデンに対する疑問が浮かんでくる。

いずれにしても、権力者の横暴を暴けなくなれば、それはジャーナリズムの死を意味する。それは、民主主義の根幹の消滅であり、米国政府はその民主主義を誇ることができなくなるだろう。心ある人は、米国の民主主義がまったく非民主的であることを知るようになるからだ。

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塩原 俊彦

(21世紀龍馬会代表)

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