無知と無関心が引き起こす大罪

無知と無関心が引き起こす大罪

このサイトで紹介したハラリの本(21 Lessons for the 21st Century)のなかに、つぎのような指摘がある。

The greatest crimes in modern history resulted not just from hatred and greed but even more so from ignorance and indifference.

憎悪や貪欲から近代史に大きな犯罪が起きたというよりもむしろ、無知と無関心の結果として大きな犯罪が起きたのだと指摘していることになる。

この指摘はおそらく正しいだろう。本当に、無知と無関心は恐ろしい事態を招きかねない。無知としてすぐに思いつくのは、安倍昭恵かもしれない。この女の無知が周りを巻き込んで森友学園問題を引き起こしたことは周知のとおりである。

無関心はいまの学生にあてはまるだろう。政治に無関心である結果、Dishonestな安倍晋三の術中にはまっている。

ここでは、若者の決起を促す意味合いを込めて、かれらの無知と無関心を刺激する話を紹介してみたい。スマートフォンなどに使用されているSIMカードにかかわる問題を解説してみたいのだ。

 

懲りない総務省の官僚

日本の官僚が四流であることは拙著『なぜ「官僚」は腐敗するのか』に書いておいた。その例として思い出すのは、郵政省(現総務省)の官僚のひどさである。同省はNTTを軸に「電電ファミリー」を傘下に置いて、関連する国内産業に君臨してきた。だからこそ、かつて、同省は利用者の利便性をまったく無視して、「電電ファミリー」を守るという政策をとった。携帯電話事業者(なかでもNTT)が端末の仕様を決めたり、サービスの開発、料金設定、コンテンツプロバイダーへの説明、販売代理店教育などを行ったりする、事業者主導の垂直統合型モデルが採用されたのである。こうすることで、NTTを中心とする「電電ファミリー」による携帯電話端末製造における出遅れをカバーしようとしたのだ。

しかしその結果、日本の利用者は世界から取り残されてしまう。海外では、携帯電話のサービスや料金は事業者が決めるが、携帯端末はあくまでメーカー主導で開発・販売されていた。だからこそ、利用者の使い勝手のいい携帯電話サービスが可能となってわけだ。ところが、日本の場合、消費者たる利用者が無視され、NTTと「電電ファミリー」が優先されてしまった(SIMロックといった拘束をしてきた日本の携帯電話サービスはまったく利用者を無視してきたと言える)。その結果どうなったかというと、結局、ぬるま湯につかってきた「電電ファミリー」は世界との競争に勝てず、凋落してしまった。その典型が「電電ファミリー」の中核企業、日本電気(NEC)の没落だ。

よく日本の携帯電話が高品質すぎて汎用性に欠けたことが日本のメーカーの敗退につながったという議論がある。しかし、この議論は正確ではない。郵政省・総務省は配下のNTTドコモが開発した、「iモード」(携帯電話を利用したインターネット接続サービス)を携帯電話に搭載して、これを武器に世界標準化しようと安易に考え、案の定、失敗しただけの話なのだ。「iモード」が若干、先進的であった時期があったために、日本の携帯電話が高品質にみえたのは事実だが、それはあくまで郵政省・総務省とNTTの都合でそうなっただけなのである。ただし、「iモード」という独自進化を遂げようとしたために、その分、日本の携帯電話業界は世界から取り残されてしまう結果になったのだ。

 

繰り返される愚行

こんな利用者無視を行ってきた総務省はいま、再び同じような愚行をしつつある。またしてもSIMカードに絡んで業界との結託が強く疑われるのだ。

2018年現在、SIMカードをめぐって各国で暗闘が繰り広げられている。ロシアのように、連邦保安局(FSB)が暗号解読可能なSIMカード搭載型の携帯電話やスマートフォンなどの利用を義務づけようとする動きや、日本のように新しいeSIMの利用を抑制して通信事業者(キャリア)を簡単に変えられないようにする動きがある(簡単にキャリアを変更できるようになることで、キャリア間の競争がさらに活発化し、料金も下がるはずだが、大手キャリアと総務省などが結託してこうした事態を避けようとしている)。ここではまず、ロシアの話を紹介しよう。そのうえで、最新の業界事情を知らない政治家やマスメディアの不勉強によって、日本のユーザーが不利益を被る事態がまた起きつつある現状について語りたい。

ロシア語の新聞「ノーヴァヤ・ガゼータ」(2018、No. 90)によれば、ロシアでは2億6000万のSIMカードが使われている。SIMカードは契約したキャリアのネットワークに接続してスマートフォンやタブレットを利用するのに欠かせないもので、SIMとはSubscriber Identity Module(加入者認識モジュール)の頭文字をとっている。ロシアでは、FSBが暗号解読可能なSIMカードの利用を義務化しようと暗躍している。ただし、FSB推奨のSIMカードの信頼性を確保するためには、15カ月ごとにカードを交換しなければならないとされており、これへの経済的負担が問題になっている。このため、すでに利用されているSIMカードの利用は黙認し、新しいスマートフォンなどについてのみFSB推奨のSIMカードの内臓義務を課そうとする構想がある。

こうしたロシアのSIMカードをめぐるFSBの画策が世界中に広がりを見せているeSIM(イーシム)の動きにどこまで対応したものかは現時点では判然としない。このeSIMはEmbedded、つまり「埋め込まれた」SIMを意味している。遠隔操作で簡単にキャリアを変更できるようにするものだ。eSIMの利点は、利用者が簡単にキャリアを変更できるので海外旅行で現地のプリペイドSIMなどを購入したりする手間が不要になる。それどころか、自宅や仕事場でキャリアを変更することも可能だ。いままでのカード型SIMカードでは一度書き込まれた電話番号情報の上書きができなかったためにカードの交換が必要であったのだが、eSIMでは上書きが可能なために簡単にキャリア変更ができる。さらに、一つのeSIMに複数の携帯電話番号情報を登録したり、逆に一つの携帯電話番号情報を複数のeSIMで共有したりできる。

ただし、このeSIMのメリットはキャリアにとってはデメリットとなる。とくに、キャリアが簡単に変更できるようになると、利用者の囲い込みに躍起となってきた日本のキャリアには打撃になりかねない。このため、キャリア側がeSIMの機能の一部しか認めず、あくまで囲い込みをつづけようとする動きが生まれる。その典型が日本だ。eSIMのメリットを利用者に享受できるようにすれば、キャリアの変更が簡単となり、それがキャリア間の競争を厳しくさせて料金値下げにもつながるはずだが、日本ではeSIMをめぐるサービス拡大について知る人が少なすぎる。この結果、政治家やマスメディアがこの問題を議論し、利用者の利便性向上につなげようとする動きがほとんどみられない。

すでに、Googleが2017年後半に販売し、日本でも2018年になって販売を開始したハイスペックスマートフォンPixel 2やPixel 2 XLにはeSIMが内蔵されており、米国仕様を利用すれば英国に着くと、キャリアの切り替えを推奨する通知が自動的にポップアップで表示されるようにできる。それによって簡単に現地のキャリアに切り替えられるのだ。こんなサービスができるまでに技術は進化しているにもかかわらず、キャリアは自らの首を絞めたくないためにeSIMの利用に制限を加えようとしている。そればかりか、日本の総務省の官僚だけでなく、バカな政治家、不勉強のマスメディアはこうした事態に気づいていない。本当にお粗末な状況にあると指摘しなければならない。

スマートフォンの利用料金が国際比較で高すぎるから、引き下げろという菅義偉官房長官の脅しは笑止千万だ。そんなことが問題なのではなく、利用者が利用できる技術がありながら、そのサービスを提供しないことで自らのビジネスを守ろうとしている独占・寡占的なビジネスのあり方そのものこそが大問題なのだ。若者は日本の通信事業者を糾弾し、総務省を批判し、なにもしようとしない政治家やマスメディアを非難しなければならない。そうしなければ、無知と無関心が再び日本をガラパゴス化させることになるだろう。

 

消費税引き上げ報道における無知と無関心

こんな大切な時期であるにもかかわらず、日本では、消費税引き上げに絡んで、take outかどうかといった、実にくだらぬ課税方法ばかりが報道されている。しかし、問題の核心はインボイス方式が引き上げと同じ時期に導入されることにある(といっても最初は日本独特の似非インボイスにすぎない)。ところが、こちらを報道するマスメディアはほとんどない。まさに、無知と無関心がまかりとおっているのだ。

日本の消費税は世界からみると信じられないほどお粗末な仕組みになっている。世界各国で導入されているいわゆる付加価値税(Value Added Tax, VAT)は、各段階で企業に課される付加価値税が最終的に消費者まで課される仕組みである。そのために、送り状たるインボイスが不可欠なのだ。しかし、日本では自民党と大蔵省(当時)が結託して、インボイス方式を見送った。その結果、なにが起きたかというと、消費税を支払わない免税事業者が自らの売値に消費税を転嫁するという事態だ。 免税事業者は仕入税額控除ができないから、消費税を支払わない免税事業者だからといって、 取扱商品の価格設定に際して、消費税を全く考慮しないというわけにもいかない。消費税のせいで仕入価格が高くなっているものもあるからだ。しかし、消費税を免税されている事業者が支払いもしない消費税分を上乗せして平然としてきたというのは、まったく理解できない。最終消費者の無知と無関心につけ込んできたのである。

こうした不透明性を除去するには、インボイスによって税部分を透明化し、その分を税額控除する仕組みしかない。ゆえに、海外ではインボイス方式が採用されてきたのである。ところが、そんなことさえ日本ではできなかった。ここに、日本の消費税の歪みがある。日本国民の無知と無関心が引き起こした結果だ。

こんな国だから、2019年からインボイス方式を導入するといっても、それは「区分記載請求書等保存方式」と呼ばれるものの導入にすぎない。2023年10月にならないと「適格請求書等保存方式」という本格的なインボイス導入とはならない。いわば、区分記載請求書等保存方式は経過措置にすぎず、課税業者が免税業者から材料などを仕入れた場合、100%の仕入税額控除が可能で、その後の2026年9月30日までの3年間は免税業者からの仕入れは80%、さらにその後2029年9月30日までの3年間は50%しか仕入税額控除ができず、それ以降は免税業者からの仕入れは100%控除できなくなる。

 

21世紀龍馬に向けて

政治は妥協の産物かもしれない。しかし、そこに無知と無関心につけ込むことがあってはならない。無知と無関心には、そうした無知と無関心を糺すしかないのだ。

どうか「21世紀龍馬」たらんとする者は、自らの無知に気づき、よく学ぶ姿勢を忘れないでほしい。加えて、自らの無関心には、できるだけ多くのことがらに関心をもつだけの余裕をもつ努力をしてほしい。たとえば、わたしの大嫌いなNHKの「日曜美術館」くらいは必ず観て、興味関心を広げてほしい。

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塩原 俊彦

(21世紀龍馬会代表)

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