The Economistの勝手な言い分

2023年9月21日付のThe Economistの記事、Ukraine faces a long war. A change of course is needed(ウクライナは長期戦に直面している。軌道修正が必要)は興味深い。ウクライナの支持者たちは一刻も早い勝利を祈るべきだが、長い戦いに備えて計画を立てるべきだと説いている。つまり、長い戦争を提案している。

 

The Economistの言い分

The Economistは、「ウクライナが解放した領土は6月にロシアが占領した領土の0.25%にも満たない」状況のなかで、過去3カ月の証拠からすると、ロシア軍の崩壊を引き起こす可能性を期待するのは間違いだろうと記している。

それにもかかわらず、「停戦や和平交渉を求めるのは無意味だ」(Asking for a ceasefire or peace talks is pointless)と主張するのはなぜなのだろう。第一に、ウラジーミル・プーチン大統領は交渉に応じるそぶりをみせないし、仮に応じるとしても、協定を守ることを信用できないからだという。第二に、彼は西側諸国が疲弊するのを待ち、ドナルド・トランプが再選されることを望んでいるという。第三に、プーチンは国内の独裁体制を支えるために戦争を必要としていると指摘している。ゆえに、たとえ停戦が実現しても、それは単に「再軍備と再攻撃の準備のための一時停止に過ぎないだろう」と、The Economistは主張している。さらに、「ウクライナ人が戦いをやめれば、国を失うことになりかねない」と、意味不明のことまで書いている。

 

反省ゼロの欧米エスタブリッシュメント

The Economistの主張は、おそらく欧米諸国にいるエスタブリッシュメントと呼ばれる人々、あるいは、自分を自らそう位置づけている人々の意見を代弁しているように思われる。だが、彼らは過去を反省していない。

まず、プーチンが停戦協定を守ると信用することはできないというのは、エスタブリッシュメント自身に向けられたものであると指摘しなければならない。いわゆる「ミンスク合意」を故意に履行せず、「時間稼ぎ」をしてきたのは米国主導のウクライナ政府であったことをわすれたのか。アンゲラ・メルケル前ドイツ首相が話したこの時間稼ぎという話は、欧米諸国とウクライナの嘘八百をさらけ出したものであり、自分たちがいかに不誠実であったかをまったく反省していない。

プーチンが西側諸国の疲弊とトランプ再選を望んでいるという話は、憶測にすぎない。ロシアが戦時経済体制になって約1年になるが、その経済は決して盤石ではない。「脅し」や「恫喝」を前提とする監視社会のタガを締めることでしか、いまのロシアを維持することはできない。こうした体制を1年先、2年先までつづけることは不可能ではない。だが、プーチンがそれを「望んでいる」かどうかはわからない。

「プーチンは国内の独裁体制を支えるために戦争を必要としている」というのは、「ゼレンスキーは国内の独裁体制を支えるために戦争を必要としている」の間違いではないか。ウォロディミル・ゼレンスキー大統領は戦争を理由に戒厳令体制を敷き、総動員のもと、憲法に規定によって大統領選なしのまま自らの権限を維持しようとしている。しかも、戦争の長期化が死傷者数の増加や国内経済のより大きな衰退を招くことをまったく気にしていないようにみえる。

このようにみてくると、「停戦や和平交渉を求めるのは無意味だ」というThe Economistの主張は笑止千万だ。

 

The Economistの主張する「長い闘い」

紹介した記事の最終段落において、The Economistは、ウクライナが敗北すれば、「EUの脇腹に破綻国家が誕生し、プーチン氏の殺人マシーンがより多くの国境に接近することになる」と書いている。そもそも、ウクライナの敗北が何を意味しているのかはっきりしない。他方で、「成功すれば、3000万人の高学歴人口、ヨーロッパ最大の軍隊、大規模な農業・工業基盤を持つ新しいEU加盟国が誕生することになる」という。しかし、ウクライナには、超過激なナショナリストの巣窟が増えており、ロシア系住民への抑圧だけでなく、今後、ウクライナにいるハンガリーやポーランド系の住民への弾圧さえ十分に予想できる。あるいは、ウクライナで軍需企業を育成しようとする計画はウクライナを軍事国家にする可能性を秘めている。

The Economistは最後に、「ウクライナに関するあまりに多くの会話が、「戦争の終結」を前提にしている。それを変える必要がある。一刻も早い勝利を祈りつつ、長い闘いを計画し、それでもウクライナが生き残り、繁栄できるようにするのだ」と書いている。

The Economistは、ウクライナがいつまで戦争をつづければいいと考えているのだろうか。ウクライナが勝利する日までか。だが、そもそもウクライナの勝利とは何を意味するのか。クリミア半島奪還こそ、勝利の証なのか。何の説明もないから、よくわからない。

 

もはや即時停戦しかない

ここで論じたように、The Economistの主張にはまったく論理的合理性がない。人命を優先する立場からみれば、即時停戦しかない。そのあとは、国連平和維持部隊の駐在によって守るしかない。拙著『ウクライナ3.0』に書いたように、実はウクライナ東部をめぐって国連の平和維持軍の駐留を妨害したのは、当時のペトル・ポロシェンコ政権であった。その後ろで糸を引いていたのは米国政府である。

米国政府の好戦的な指導者を糾弾・批判することこそ必要なのである。

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塩原 俊彦

(21世紀龍馬会代表)

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