カールソンによるプーチンインタビューをめぐって:和平協議に待ったをかけた米英の責任

2024年2月6日に収録され、2月8日に公開されたウラジーミル・プーチン大統領へのインタビューについては、拙稿「「特別寄稿」プーチンへのカールソンインタビューを解説する:和平を拒否させた英米、事実を報じない西側メディア」を参照してほしい。

私は、もう20年以上、日本語で書かれた新聞を定期購読していないので、日本語の新聞がこのインタビューをどのように報じているかを知らない。すでに、この拙稿で指摘したように、毎日読んでいる「ニューヨーク・タイムズ」にしても、「ワシントン・ポスト」にしても、あるいは、「ウォール・ストリート・ジャーナル」にしても、もっとも重要な部分、すなわち、イスタンブールでの和平協議における合意と、それを破棄して、戦争継続を説得したボリス・ジョンソンの動きにかかわる部分を報じていない。読者に知られてはまずい部分を報道しないことで、明らかに情報操作をしているのだ。

 

ジョンソンのコメント

拙稿は9日に書いたものだったので、ジョンソンのインタビューに対するコメントを紹介することはできなかった。そこで、「デイリー・メール」で紹介された「ボリス・ジョンソン:プーチンの手先タッカー・カールソンとのインタビューは、ヒトラーの脚本そのままだった。アメリカ人がこの邪悪な見せかけを見破ることを祈る」という、9日に公開された彼自身によるコメントについて紹介してみたい。まさに、この問題こそ、世界中の人々が知るべきことだからだ。つまり、戦争を長引かせた責任はジョンソンおよびその裏で糸を引いていたジョー・バイデンにあるからだ。

まず、ジョンソンは「大ウソつき」であったし、いまもその可能性が高いと書いておこう。だれもが知っているように、彼はCOVID-19によるパンデミックの最中、国民に自粛を要請する一方で、封鎖中のダウニング街の庭で、妻や最大17人のスタッフとともにワインとチーズを楽しんでいる写真を撮られた(「ザ・ガーディアン」を参照)。その結果、「仕事の会合」が行われていた「嘘」がバレた。こんな「ゴキブリ野郎」だが、今回のインタビューについて何と書いたのだろうか。

 

「バカげたほのめかし」(ludicrous suggestion

ジョンソンは、他の多くの欧米メディアと同じように、「彼は厳しい質問をしなかった。彼はプーチンに、なぜ今なお、罪のないウクライナの市民を傷つけ殺害するために、現代戦の最も残忍な手段を用いているのかと尋ねなかった」と記した。カールソンを貶めることで、プーチンへのインタビューそのものの信憑性を棄損しようとしていることになる。それは、私がジョンソンを「大ウソつき」と紹介したやり方に似ている。ただし、私の記述は事実そのものに基づいたものであって、ジョンソンの恣意的で歪められた表現とは次元が違う。

もっとも重大なのは、ジョンソンは、「彼は、2022年の春に英国政府がウクライナ人にプーチンの慈悲に身を委ねるのではなく、戦い続けるよう説得したというバカげたほのめかしには異議を唱えなかった」としか書いていない点だ。「バカげたほのめかし」(ludicrous suggestion)とジョンソンが表現したのは、プーチンが指摘したウクライナ側の和平協議代表者だったダヴィド・アラハミヤの声明のことである。その声明の内容は、「私たちはこの文書に署名する準備ができていたが、当時の英国首相であったジョンソン氏がやってきて、ロシアと戦争した方がいいと言って、私たちを説得した。ロシアとの戦闘で失ったものを取り戻すために必要なものはすべて与えてくれる。そして我々はこの提案に同意した」というものだ。

 

和平合意の署名はしていない

おそらく、私がこれまで書いてきたとおり、何かの和平交渉において進展があったのは事実だろう。しかし、プーチンがカールソンとのインタビューで明らかにしたアラハミヤによる署名の話は「嘘」であると思われる。

2024年2月11日付のBBCのウクライナ語版によれば、「アラハミヤ氏によると、会談のなかでロシア代表団は、ウクライナの中立的地位を保証する文書への署名、NATO加盟の意思の放棄、その他多くの要求、つまり主権の実質的な喪失を主張した。しかし、キエフの代表はこれに同意できなかった」という。プーチンは、ウクライナの永世中立と安全保障に関するいわゆる協定には18の条項があり、軍事装備からウクライナ軍の人員に至るまで、すべてが明記されており、ウクライナ代表団の代表の署名があったとしたいようだ。しかし、これはおそらく「嘘」だろう。

 

戦争継続の説得はあったのか?

アラハミヤは、「私たちがイスタンブールから戻ったとき、ボリス・ジョンソンがキーウに来て、彼らとは一切調印しない、ともかく戦おう、と言った」というのは事実らしい。ただし、和平交渉を拒否して戦争をつづけようと文脈でジョンソンがゼレンスキーを説得したというのは間違えだという。

ジョンソン自身は、「ウクライナ側が和平交渉を行おうとしていたとしても、それを尊重することができるだろうか?ポーランドやバルト三国、旧ソ連の広大な周辺地域のどこであれ、彼(プーチン)が信頼できないのは明らかだ」と書き、問題となっている2022年4月のキーウ訪問でのゼレンスキーとの会談内容については何も明らかにしていない。

私自身は、戦争継続に向けた話があったと推測している。しかし、その真偽についてはいまの時点ではわからない。

だからこそ、2022年4月の時点で、戦争継続へと舵を切ってしまった決断についてよく検証する必要があると書いておきたい。もちろん、その最終決断はゼレンスキーがくだしたものだが、その決断を促した人物も大きな責任を負っている。ジョンソンがゼレンスキーを促し、その背後にバイデンがいたという見立てが現実に近いのではないかと考えている。

 

何が重要かを判断できない西側メディア

私のみるところ、今回のインタビューについて、BBCだけが多少なりとも、まともな報道を行っている。他の西側メディアはダメだ。戦争継続部分に焦点を当てた分析ができていない。微妙な問題だからこそ、プーチンはインタビューのなかで「嘘」を取り混ぜて、西側に波紋を巻き起こそうとしたのだろう。だが、多くのマスメディアはその最重要部分を無視することで対応した。まさに、「プロパガンダ戦争で米国に勝つのは非常に難しい。なぜなら、米国は世界中のメディアと多くのヨーロッパのメディアを支配しているからだ」というプーチンの発言は本音なのだろう。

 

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塩原 俊彦

(21世紀龍馬会代表)

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