閑話休題14 「フェイクニュース」の裏側

「フェイクニュース」の裏側

 

「フェイクニュース」批判を繰り広げるトランプ大統領に少しだけ親近感を覚えることがある。なぜなら日本でも「フェイクニュース」があふれているからだ。

といっても、「虚偽」によるニュースではなく、事実の一断面に気づかないまま、あるいは意図的に無視したまま、情報提供することで、「偏見」を植えつけようとする「情報操作」(manipulation)がまかり通っていることをここでは問題にしている。こうした情報操作は厳しく言えば、「フェイクニュース」と解釈できるのではないか。

 

ウクライナ危機から大統領選干渉へとつづく「フェイクニュース」

わたし自身が直接、かかわったことで話をすれば、2014年春に表面化したウクライナ危機に際しての日本の報道がそれにあたる。ロシアのクリミア併合で、ロシアばかりが「悪者」にされ、プーチン大統領がクリミア半島奪還を仕組んだとみる、まったく根拠のない情報が跋扈した。拙著『ウクライナ・ゲート』や『ウクライナ2.0』で詳しく論じたように、この危機は米国の「民主主義の輸出」という、きわめて無責任な外交政策の結果、引き起こされたものであり、「善悪」で言えば、米国が「悪」であったことは明らかだ。にもかかわらず、こうした見方は無視され、いまでも「ロシアが悪い」と誤解している日本国民がほとんどだろう。それはまさに、「フェイクニュース」によって米国側だけの言い分を信じて疑わない一方的な情報操作に騙されているからなのだ。

内訳話をすれば、わたしは朝日新聞社の友人に頼んで、自説を投稿欄に掲載するように頼んだ。しかし、その時点で朝日新聞は3回もプーチン批判の社説を掲載しており、真っ向から米国を批判するわたしの意見はついに掲載されることはなかった。残念ながら、「フェイクニュース」を垂れ流しているのが大新聞社ということになる。朝日だけでなく、読売も毎日も同じ穴の貉と指摘せざるをえない。

こうした「フェイクニュース」はいまでも流れている。ロシアが米大統領選で「情報戦」を展開し、ロシアとの関係改善に前向きだったトランプ候補(当時)を支援したのではないかとされる事件についての情報だ。これもまた、ロシアの「悪」だけを問題視する論調ばかりが目立つ。だが、米国が「民主主義の輸出」を通じて、さまざまの国の大統領選に露骨に干渉してきた事実を知っていれば、ロシアは米国を模倣しただけだという見解にたどり着く。たとえば、2003年にグルジア(ジョージア)で起きたシェワルナゼ大統領を辞任に追い込んだ「バラ革命」や、2004年から2005年にかけてウクライナで起きた親米のユーシェンコ大統領就任をめぐる「オレンジ革命」に、米国が積極的に関与してきたことは明白である。後者については、SNSが利用され、カネがばら撒かれた。

2010年から2012年にかけての「アラブの春」と、欧米のマスコミが勝手に呼んでいる事態も、米系のSNSが活用された。米国政府が後ろで糸を引いて事件である。

ついでに、米国が「ワーム」を使って「サイバー戦争」への端緒を開いたことも忘れてはならない。スタックスネット(Stuxnet)という、2009年から2010年に発見されたワームで、イランでウラン濃縮を行っていたナタンズ工場をターゲットにしていたとされる攻撃については、若干の専門家は武力攻撃にあたるという見解をとっている。

2013年3月、「サイバー戦に適用可能な国際法に関するタリン・マニュアル」(「タリン・マニュアル」)が公表されて以降、世界はここで規定されているルールをめぐる意見の対立の調整という問題に直面している。オバマ大統領就任後、米国政府のサイバー空間に対する姿勢が変化した結果、国家間の戦争としてサイバー空間上の「戦争」を規定することがこのタリン・マニュアルによって具体的に示されている。実は、ジョージ・W・ブッシュ政権の2期目の2006年ころ、米国政イスラエル政府が共同でStuxnetの開発に着手したのであり、これを使った攻撃が2009年6月に行われたことがサイバー空間上の具体的戦争を想起させ、オバマ政権下での方向転換をつながったのだ。それどころか、2009年に大統領に就任したばかりのオバマは同年5月、「今後、毎日、我々が依存しているネットワークやコンピューターといったデジタルなインフラはあるべきもの、すなわち、戦略的財産として取り扱われるだろう」としたえで、「こうしたインフラを守ることが国家安全保障の優先課題となるだろう」と明言した。まさに、米国のやっていることはマッチポンプそのものなのだ(詳しくは拙稿「サイバー空間と国家主権」を参照[http://src-h.slav.hokudai.ac.jp/publictn/JapanBorderReview/no5/pdf/02.pdf])。

こうした事実を知ったうえで、ロシアによる干渉がなぜ起きたかや、それへの対処法を論じなければ、「フェイクニュース」に騙されてしまうことになる。こう考えると、日本にも「フェイクニュース」は氾濫しており、それをバカな「専門家」が億面もなく拡散させているのだ。

ついでに、大相撲をめぐる「フェイクニュース」についても指摘しておきたい。白鵬を中心とするモンゴル人力士の「リンチ」がことの真相であり、だからこそ何度も貴ノ岩はなぐられた。それだけのことだ。想像力を働かせれば、暴力に対してだれも止めに入らないというのはおかしい。にもかかわらず、日本のテレビも新聞も白鵬批判に及び腰だ。池坊保子なる品性下劣な人物がテレビに登場するに至っては、相撲協会の評議委員会議長に彼女を選んだこと自体がまったく理解できない。ろくでもない連中の巣窟なのだろう。わたしの見立てでは、『週刊文春』だけが的確な報道をしている。こんなどうでもいいような出来事さえ、まともに報道できない日本のマスメディアの現状に危機感を覚えている。

 

情報入手をめぐって

こうした懸念すべき状況のもとで、わたしが若い学生たちに強調したいのは「信頼できる人物を探し出し、ときどきかれらの主張に耳を傾ける努力をせよ」ということだ。わたしが長く信頼してきたのは柄谷行人と大澤真幸だが、近年、30年来の友人である出口治明が加わった。さらに、愛読する『逆説の日本史』の著者、井沢元彦も私淑している。逆に、池上彰のような輩は唾棄すべき人物として軽蔑している。「フェイクニュース」を垂れ流している本人だからだ。

いまの大学生をみていると、スマートフォンのアプリで入手できる、お粗末きわまりないニュースの見出し部分をスクロールするだけで、日本や世界の政治・経済、文化などについての情報を深く知ろうと努力していないようにみえる。せめて、ニューヨーク・タイムズやワシントン・ポスト、あるいはBBCのアプリをダウンロードして、英語で毎日、ニュース配信をしっかり読んでほしいのだが、そんな努力をしていると思える学生に出会ったことがない。

ましてや雑誌や書籍を熟読して、深く考えようとする者は皆無であるかのように思える。これでは、「フェイクニュース」に騙され放題ということになりかねない。

心配なのは、「虎ノ門ニュース」といった偏見だらけの情報機関が幅を利かせていることである。「ネット社会」では、極論を大声で叫ぶような者がでかい顔をしているように思える。これに対しては、わたしの高校の先輩である金子勝慶大教授の登場する「大竹まことゴールデンラジオ」『紳士交遊録』に頑張ってもらうしかない。

 

Wiredを読め

わたし自身は35年以上にわたってThe Economistを読んできた。ウクライナ危機に際して、この雑誌もまた「フェイクニュース」を垂れ流していることに気づいたが、それでもいまでも愛読している。世界の情勢に少しでも精通するには、この雑誌がなんといっても優れているからである(その昔、『経済セミナー』で2年間、「西から吹く風」という連載をしていたとき、世界中の雑誌の比較をして、The Economistのすごさを実感した)。

いま学生に勧めているのは、Wiredである。英語版だけでなく、一部が翻訳された日本語版もあるから、とりあえずは日本語版を読み、できれば英語版も手にしてほしい。インターネッと時代における最新情報が数多く入手できる。この雑誌を30年以上、読みつづければ、その人の人生はきっと実り多いものになるだろう。

ついでに、いまの学生の大半は日本の新聞さえ読まない(実は、わたしも20年近く日本語の新聞を購読していないから、あまり偉そうなことは言えないと率直に書いておこう)。「フェイクニュース」を垂れ流す朝日、読売、毎日などは読むに値しないかもしれないが、日経だけはぜひ読んでほしい。「ブロックチェーン」を無視するような不見識な3大新聞は「フェイクニュース」に満ちているが、新しいネット環境の変化に目配りを忘れない日経の姿勢は称賛に値する。

「21世紀龍馬」に近づくには、まず情報入手から再構築しなければならない。「19世紀龍馬」は手紙という当時の先端情報技術をうまく活用したが、そんな龍馬にあやかる必要があるだろう。

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塩原 俊彦

(21世紀龍馬会代表)

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