安倍外交の失敗

安倍外交の失敗

塩原 俊彦

いま、カザフスタンにいる。アルマトイでも、ロシアのRTRやチャンネル1といったテレビをみることができるので、9月12日の東方経済フォーラムでのウラジーミル・プーチン大統領の安倍晋三首相への唐突な提案を知ることができた。前提条件なしの年末までの平和条約締結提案のことである。日本政府は、北方領土4島返還後の日ロ平和条約締結を前提に交渉を継続してきたのだから、プーチン提案はこの日本側の方針の180度転換を促す「ちゃぶ台返し」とみなすことができる。

この出来事は、このサイトで頻繁にディスオネスト安倍(Dishonest Abe)と揶揄してきた安倍が外交上もまったく信頼されていないことを示している。経済協力でまず道筋をつけるといっても、国後や択捉での共同経済活動は頓挫しており、欧米諸国による対ロ経済制裁の強化で日ロ経済協力自体があまり進んでいない。

他方で、ロシア政府は対中依存を強めるばかりの状況にある。このため、ロシアにとって日本の利用価値は低下する一方だ。だからこそ、プーチンは進展のみられない日ロ関係にいらだっているのだろう。

Dishonest Abeは加計学園や森友学園の問題にからんで平然と日本国民に嘘をつきつづけている。官僚も同じだ。公文書すら改竄し、しかも罪に問われることさえない。障害者雇用の捏造問題は日本政府がまったく信頼できないことを如実に示している。Dishonest Abeのもとに広がる腐敗国家日本は、国内と同じようにまったく不誠実なことを海外に向けてもしているのであろう。だからこそ、信用されないのだ。

ロシア側は、日本の企業が経済産業省に恫喝されながら日ロ協力に前向きに取り組むよう促されていることを知っている。それは、ロシア政府がロシア国内で行っているやり口によく似ているのかもしれない。だからこそ、日ロ経済協力が画餅にすぎないことをかれらは熟知しているのだ。

 

ウクライナ危機への対応の過ち

日本は長く米国の「ポチ」として仕えてきたし、いまも基本的に同じである。しかし、2014年春の表面化したウクライナ危機に際して、日本政府はもっとロシア寄りの立場を明確に示すべきであった。退任間近なバラク・オバマ大統領と対峙しても、2014年2月21日に結ばれた協定の遵守を求めて、なし崩し的な親米で過激なナショナリストによるクーデターを糾弾すべきであったのだ。

もちろん、その後のロシア政府主導の米国大統領選への干渉やスクリパリ父娘への攻撃などについては、日本政府は毅然たる態度でロシア政府を非難すればいい。ただ、2014年の段階ではプーチンの肩をもつべきだった。なぜならウクライナでのヴィクトル・ヤヌコーヴィッチ大統領の掃討は当時の米国政府の仕業であったのだから。ドイツのアンゲラ・メルケル首相と率直に話し合い、領土問題をかかえる日本への理解を求めつつ、米国政府の政策から距離を置きつつ、ドイツとの関係強化を模索するといった外交が必要であったと思う。

そうしておけば、プーチンの安倍に対する見方は違っていただろう。少なくともDishonest Abeではなく、信頼にたる誠実な人物として安倍をみなしたはずだ。しかし、そうはならなかった。日本政府は米国のポチをつづけ、世界からバカにされつづけているのである。日本の外交官は政治家との会談日程ばかりに気をつかい、急速に変化するグローバルな政治経済情勢を語れない。日本の官僚もまったく軽視されているのだ(詳しくは近刊『なぜ「官僚」は腐敗するのか』を参照)。

 

不誠実な日本政府

日本政府はDishonest Abeと同じくまったく不誠実である。なぜなら日本国民の生命・財産を守ることさえしていないからだ。拙著『プーチン露大統領とその仲間たち:私が「KGB」に拉致された背景』で書いたように、2016年2月20日にわたしがモスクワで拉致された事件について、いまだになにも日本政府から接触がない。本に書き、雑誌に紹介し、ロータリークラブで講演しても、外務省も内閣府も無視しつづけている。日本政府は日本国民の安全などまったく軽視しているのである。

こんな政府が尻をたたいて日ロ協力などと言っても、それは詭弁であり、日本国民を危険にさらすことでしかない。ロシアではプーチン大統領就任後、諜報機関であるロシア保安局(FSB)の権力が強まっている。FSB職員が他官庁にも、大企業や銀行にも組み込まれている。こうした「現実」を日本国民に知らしめることさえ、日本政府はしていない。Dishonest Abeのもとで、官僚もまたきわめて不誠実なのである。

 

平和条約先行の意味

わたしは、安倍ともプーチンとも異なって、「国家主義者」ではない。日本国というものが「世界共和国」のなかに組み込まれることを夢みている夢想家にすぎない。こんなわたしからみると、領土問題は国家というわけのわからない「リヴァイアサン」同士の問題でしかない。国家よりももっと大切な人間同士の交流のほうがずっと大切だと思う。そう考えるわたしにとって、日ロ平和条約の締結は悪い話ではない。ただし、北東アジアの国際情勢の変化のなかで、中長期的な視野にたった戦略がなければ一歩前に踏み出すのは難しいだろう。

中ロの協力関係が軍事同盟に近づいている現状のなかで、逆に日米の関係は決して盤石ではない。ドナルド・トランプもDishonest Abeを信頼してはいない。もともとポチにしか思っていないのだから、主従関係があるだけだ。しかも、米国政府の外交政策は短期に傾斜しており、中長期的な戦略がみえない。

地政学的にみると、「シェール革命」後、米国は再び優位に立つチャンスがあったにもかかわらず、その機会をいかしていない。エネルギー開発で優位にありながら、中ロ接近を許してしまった結果、結局、中長期的には中国の台頭を手助けしているようにさえ思えてくる。

 

超短期の変動への対処法

トランプは自分の命運が決まる2018年11月の中間選挙だけしか念頭にない。こうした超短期の出来事のために、米国政府の内政・外交が決まっている。そんな現実に対して、Dishonest Abeはどうしようとしているのか。かれの場合も、ここ数カ月、自分の自民党総裁選しか眼中になかったはずだ。

たとえDishonest Abeが総裁に再選され、首相を継続しても、かれには中長期戦略がない。憲法改正をもくろんでいるようだが、これほど不誠実な人物のもとで憲法改正ができるとは思えない。

超短期の変動のもとで必要なのは、リスクヘッジである。数カ月以内に日本の財政破綻が起きるかもしれない以上、国民もさまざまリスクに備える必要がある。そうした目先の対処を否定はしない。だが、「21世紀龍馬」にあこがれる気持ちがあれば、「遠くを見つめる目をもちたい」という、詩人・松永伍一からもらった警句を大切にしてほしい。

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塩原 俊彦

(21世紀龍馬会代表)

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