映画「はりぼて」と文春新書『地方議員は必要か』

映画「はりぼて」と文春新書『地方議員は必要か』を材料にして、9月末に「ニッポン不全4 地方の腐敗は日本の腐敗」(仮題)を「論座」にアップロードする予定です。ここでは、この二つについて簡単に説明したいと思います。

 

映画「はりぼて」

映画「はりぼて」は、2016年8月に開局した富山県のチューリップテレビが「自民党会派の富山市議 政務活動費 事実と異なる報告」とスクープして以降のドキュメンタリーです。8カ月間に14人の市議会議員が辞職したのですが、相次ぐ不正発覚で議員のなかには起訴されても議員を辞めず居座るようになります。議長が不祥事で辞めると、つぎの議長がまた不祥事で辞める。自民党議員の「腐敗」の根深さがよくわかりますね。

しかし、腐敗は自民党議員ばかりではありません。旧民主党とおぼしき会派の連中は領収書の数字の先頭に数字を書き足すといった方法で、不正を再三繰り返していました。いわゆる「政務活動費」の不正流用にあたるわけですから、詐欺を働いていたことになります。自民党も野党も、人間として最低な奴らが市議会議員を務めていたことなります。

それだけではありません。事件発覚後の2017年の選挙で当選した者のなかにも、不正に手を染めていた者が複数いました。怒りがあきれに変わり、そして、あきらめにまで至ってしまいます。

タイトルの「はりぼて」とは、中身がないことを意味しますが、空虚で空疎な日本の地方政治の実態が深く印象づけられます。それでは、具体的な「はりぼて」は何を意味するのか。議員も市長も記者さえも「はりぼて」と思えてきますが、有権者も「はりぼて」であることがインタビューへの無邪気な答えに現れている気がしてきます。

 

地縁血縁の濃い地方の怖さ

興味深いのは、地方独特の地縁・血縁の濃さが問題を引き起こすという構造です。チューリップテレビが行った議会議事録や公民館に申請した情報公開請求が追及を受けている側に筒抜けになっていたのです。地縁血縁で強く結びついている地方では、情報公開請求すると、請求者のプライバシーがまったく守られず、安易に侵害されてしまうというわけです。

 こんなことをすれば、当然、地方公務員法第34条1項「職員は、職務上知り得た秘密を漏らしてはならない。その職を退いた後も、また、同様とする」に違反します。現職が守秘義務に違反すれば、懲戒処分や刑事の対象(1年以下の懲役または50万円以下の罰金)に処せられます。しかし、地方で起こりやすい情報公開請求に伴う請求者のプライバシーを守るためには、地方公務員法とは別に、もっと厳格でしっかりとプライバシー保護につながる抑止体制を整えることが重要だと指摘せざるをえません。

 

御用学者の存在

地方にも御用学者や利害関係者がたくさんいます。富山市の問題の発端は、議員報酬を月額60万円から金沢市並みの70万円に引き上げるようとした自民党のドンにありました。市議会のドンと呼ばれた中川勇が10万円の引き上げをもくろんだところからはじまったのです。報酬以外に政務活動費をもらっているにもかかわらず、あるいは、デフレ下にもかかわらず、富山市議会は実際に中川らの目論見通りになります。特別職等報酬審査会に諮問するのですが、彼らにとっては委員会のメンバーを抱き込むことは造作もないことでした。10万円引き上げを可とする答申を受けて、2016年6月15日、富山市議会は引き上げを賛成多数で可決しました。これをきっかけに、議員への厳しい目が向けられることになったのです。

政務活動費の不正が発覚して、この引き上げも撤回されました。しかし、最初の答申を出したメンバーがその後、どうなったかはわかりません。自民党の議員と結託して、税金を食い物にしながら、地方で甘い汁を吸い続けることでのうのうと生きている連中をそのまま放置しておいていいとは思えません。しかし、残念ながら、こうした連中を野放しにするなかで、地方の住民は「赤信号、みんなで渡れば怖くない」という生き方をしているわけです。人間として最低な連中ですね。

 

『地方議員は必要か』

NHKスペシャル取材班が著した『地方議員は必要か:3万2千人の大アンケート』(文春新書)という本は6月に刊行されたばかりの本です。そこで、この本を紹介することで、もう少し踏み込んで地方政治の腐敗ぶりについて考えてみたいと思います。

この本では、「地方議会のいま、最大の懸案が、議員の“なり手不足”だ」と書いています。少なくとも当事者らが最大の要因だと指摘しているのが「議員報酬」だという。もちろん、地方自治体によって大きな格差があるので、一般論は展開できません。しかし、こんな説明に納得することは到底できません。なぜなら、多くの世襲議員が地方政治の場にいるからです。政治が商売になるから世襲が成り立つのではないでしょうか。

本では、議員になるきっかけが「家族・親戚が政治家」という人を政治家家系として集計しています。その結果、都道府県議と村議に世襲が多いという結果が出ました。世襲議員には、間違いなく「地盤」(組織力)、「看板」(知名度)、「カバン」(資金力)があります。そこには、日本が育んできた長年にわたる持ちつ持たれつの抜きがたい癒着があり、法の支配を超えた腐敗が蝕む、というわけです。ゆえに、理由なく議員報酬が安いなどとほざくのではないでしょうか。

たしかに、報酬が低ければ議員になろうという者が減るかもしれない。しかし、カネ目当てで政治家になるのはおかしい。カネがほしければ、議員定数を減らすしかありません。あるいは、ろくな仕事もしていないのですから、政務活動費も廃止すべきでしょう。富山市では、「視察」という制度を廃止しましたが、他のすべての都道府県で同じことをすべきでしょう。国会でも同じですね。何しろ、世界の情勢など、もはやインターネットで丹念に調査すれば、かなり詳しいことまでわかるのですから。

 

政治の腐敗

まだまだ書くべきことはたくさんありますが、つづきは「ニッポン不全4」を読んでみてください。わたしは、「政治家をみれば、泥棒と思え」と学生たちに話しています。ろくでもない政治家が9割方ではないかと思われます。ゆえに、与野党の区別なく政治家自体にろくでもない奴が多いと言わざるをえないのです。

こんなとんでもない状況を変えるにはどうしたらいいか。一刻も早く改革しなければなりません。そのための現実的な一歩は、とにかく女性の議員を増やすことだと思われます。わたしの知る限り、女性の政治家にもあまり大した人物がいるとは思えません。しかし、少なくとも男性の政治家よりもまともな人が多いのではないでしょうか。そんなことも「ニッポン不全4」に書いておきました。

最後に、菅義偉が自民党総裁、そして首相になりそうですね。真っ黒な自民党、腐敗の蔓延する自民党のトップになるわけですから、菅本人も相当に汚れていることは間違いないでしょう。この国は根本的におかしいのです。「21世紀龍馬」が必要な理由がここにあります。

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塩原 俊彦

(21世紀龍馬会代表)

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