若者よ もっと怒れ! eSIM問題で

若者よ もっと怒れ! eSIM問題で

 

最近、実に驚くべきことが明らかになりました。Appleが2018年12月、iPhone XR、iPhone XS、iPhone XS MaxでeSIMを使ったサービスを提供できる通信事業者(キャリア)を発表したのです。ドイツ、チェコ、オーストリアでサービスを提供しているT-Mobil(ドイツテレコムの子会社)、英国のEE、ノルウェーではTelenorなどです。アジアでは、香港の香港移動通訊有限公司(1010)、China Mobile、SmarTone、台湾ではAPT、インドでは、AirtelとReliance Jio、タイではAIS、True MoveなどがeSIMに対応することになりました。しかし、日本の通信事業者は対応しないのです。先進国でも、あるいは発展途上国でも、eSIMが利用できるようになるのに、日本のキャリアはこれをまったく無視して平然としているのです。

この現実を日本の利用者はどう考えるのでしょうか。日本の通信事業者は結託して、eSIM利用を阻止しようとしているに違いありません。しかし、こうした行動を批判したり糾弾したりする声を聞きません。理由は簡単です。新聞やテレビにとって、ドコモ、au、ソフトバンクはもっとも重要な広告主であり、彼らを批判できないのです。そうであっても、政治家やジャーナリスト、あるいは学者は批判できるはずなのですが、残念ながら、現実を見渡すと、この問題自体を知る者は少なすぎるのです。

 

SIMカードと暗号

そもそもeSIM自体を知らない人が多すぎます。そこでSIMカードの話からしましょう。 ロシア語の新聞「ノーヴァヤ・ガゼータ」(2018、No. 90)によれば、ロシアでは2億6000万のSIMカードが使われています。SIMカードは契約したキャリアのネットワークに接続してスマートフォンやタブレットを利用するのに欠かせないもので、SIMとはSubscriber Identity Module(加入者認識モジュール)の頭文字をとっています。

ロシアでは、連邦保安局(FSB)が暗号解読可能なSIMカードの利用を義務化しようと暗躍しています。海外製のSIMカードの利用は安全保障上、リスクがあるという理由から、FSBは自らが解読できる暗号を使ったSIMカードの暗号化を推進しようとしているのです。現に、2013年に米国政府の諜報活動の実態を暴露したエドワード・スノーデンは2015年になって、世界的なSIMカードメーカーであるオランダのGemaltoがSIMカードの暗号キーを盗まれていたことを暴露した(Gemaltoはこれを否定)(Коммерсанть, Aug. 17, 2018)。

ただし、FSB推奨のSIMカードの信頼性を確保するためには、15カ月ごとにカードを交換しなければならないとされており、これへの経済的負担が問題になっています。このため、すでに利用されているSIMカードの利用は黙認し、新しいスマートフォンなどについてのみFSB推奨のSIMカード搭載を義務づけようとする構想があります。

 

eSIMをめぐって

こうしたロシアのSIMカードをめぐるFSBの画策が世界中に広がりを見せているeSIM(イーシム)の動きにどこまで対応したものかは現時点では判然としません。このeSIMはEmbedded、つまり「埋め込まれた」SIMを意味しています。遠隔操作で簡単にキャリアを変更できるようにするものです。eSIMの利点は、利用者が簡単にキャリアを変更できるので海外旅行で現地のプリペイドSIMなどを購入したりする手間が不要になります。それどころか、自宅や仕事場でキャリアを変更することも可能です。いままでのカード型SIMカードでは一度書き込まれた電話番号情報の上書きができなかったためにカードの交換が必要でしたが、eSIMでは上書きが可能なために簡単にキャリア変更ができます。さらに、一つのeSIMに複数の携帯電話番号情報を登録したり、逆に一つの携帯電話番号情報を複数のeSIMで共有したりできるようになります。

ただし、これらのeSIMのメリットはキャリアにとってはデメリットとなります。とくに、キャリアが簡単に変更できるようになると、利用者の囲い込みに躍起となってきた日本のキャリアには打撃になりかねません。このため、キャリア側がeSIMの機能の一部しか認めず、あくまで囲い込みをつづけようとする動きが生まれるのです。その典型が日本ということなのです。

 

郵政省(現総務省)の愚行

ここでNTTを軸に「電電ファミリー」を傘下に置いて、関連する国内産業に君臨してきた郵政省(現総務省)が、NTTという事業体主導の対応策を押しつけるという愚策を講じたことをはっきりと思う浮かべるできでしょう。利用者の利便性をまったく無視して、「電電ファミリー」を守るという政策です。携帯電話事業者(なかでもNTT)が端末の仕様を決めたり、サービスの開発、料金設定、コンテンツプロバイダーへの説明、販売代理店教育などを行ったりする、事業者主導の垂直統合型モデルが採用されたのです。こうすることで、NTTを中心とする「電電ファミリー」による携帯電話端末製造における出遅れをカバーしようとしたのです。

しかしその結果、日本の利用者は世界から取り残されてしまいました。海外では、携帯電話のサービスや料金は事業者が決めますが、携帯端末はあくまでメーカー主導で開発・販売されていました。だからこそ、利用者の使い勝手のいい携帯電話サービスが可能となってわけです。ところが、日本の場合、消費者たる利用者が無視され、NTTと「電電ファミリー」が優先されてしまったのです。後述するSIMロックといった拘束をしてきた日本の携帯電話サービスはまったく利用者を無視してきたと言えます。その結果どうなったかというと、結局、ぬるま湯につかってきた「電電ファミリー」は世界との競争に勝てず、凋落してしまいました。その典型が「電電ファミリー」の中核企業、日本電気(NEC)の没落でしょう。いわゆる「ガラパゴス化」という日本独自の「進化」を余儀なくされて、日本はまっさかさまに転落したのでした。

日本の携帯電話は消費者ニーズを無視するかたちで、携帯電話事業者との癒着によって普及したことを忘れてはなりません。欧米先進国では、一般に携帯電話利用周波数はその使用権を競売し、その収益を国家歳入とする方式が採用されました。これに対して、日本では周波数を事業者に無償で貸与する政策がとられ、その浮いた資金は携帯電話網の整備に加えて、携帯端末販売の奨励金の原資としえたわけです。その際、郵政省は配下のNTTドコモが開発した、「iモード」(携帯電話を利用したインターネット接続サービス)を携帯電話に搭載して、これを武器に世界標準化しようと考えていたのです。

この安直な考えの犠牲となったのが日本の消費者でした。携帯電話事業者はSIMロックや独自コンテンツサービスなどを武器に消費者をロック・イン(鍵をかけて囲い込む)しようとしたのです。ところが、SIMロックのない海外では、消費者の流動性が高いなどの事情から、通信の規格統一が進み、通話品質では劣っているものの、比較的コストの安いGSM(Global System for Mobile communications)が第二世代移動通信システムの世界標準となるのです。郵政省、NTTドコモが一敗地に塗れただけでなく、日本の消費者も莫大な損失を被ったのです。

 

再び利用者が無視されている日本

そもそも「SIMロック」を義務づけてきた総務省が「SIMロック解除に関するガイドライン」を改正したのは2014年12月にすぎません。新たに販売される端末でSIMロックが禁止されたのは2015年5月でした。この間、日本国民の多くが大迷惑をこうむってきたのです。このSIMロックによって、利用する通信事業者の変更をできないようにしてきたからです。しかし、SIMの物理的な入れ替えに伴う困難を避けるため、世界ではeSIMが提唱されるようになっています。GSM方式の携帯電話システムを 採用している移動体通信事業者や関連企業からなる業界団体GSMAは2013年12月にその技術仕様で合意しています。

にもかかわらず、日本ではeSIMをめぐるサービス拡大について知る人が少なすぎます。eSIMのメリットを利用者に享受できるようにすれば、キャリアの変更が簡単となり、それがキャリア間の競争を厳しくさせて料金値下げにもつながるはずなのですが、日本ではeSIMをInternet of Things(IoT)の分野で利用するといった程度のことでお茶を濁そうとしているかにみえます。家電などで使われるIoTディバイスはWi-Fi環境が整った場所で使用されるのでインターネット接続のための通信手段は容易と考えられるのですが、屋外で使用されるようなディバイスの場合、通信確保が困難になるためにeSIMを活用しようというわけです。しかし、これではeSIMの利便性を利用者が十分に享受することにはなりません。

2018年になっても、政治家やマスメディアがこの問題を議論し、利用者の利便性向上につなげようとする動きがほとんどみられません。すでに、Googleが2017年後半に販売し、日本でも2018年になって販売を開始したハイスペックスマートフォンPixel 2やPixel 2 XLにはeSIMが内蔵されています。米国仕様を利用すれば英国に着くと、キャリアの切り替えを推奨する通知が自動的にポップアップで表示されるようにできます。それによって簡単に現地のキャリアに切り替えられるのです。こんなサービスができるまでに技術は進化しているにもかかわらず、キャリアは自らの首を絞めたくないためにeSIMの利用に制限を加えようとしていることになります。

 

21世紀龍馬」は決起せよ!

はっきり言ってしまえば、日本の総務省はキャリアと結託して、再び日本国民を犠牲にしようとしているのです。新しいeSIMの利用を抑制してキャリアを簡単に変えられないようにすることで、キャリア間の競争促進をむしろ抑止しようとしているのです。

「21世紀龍馬」たらんとすれば、こうした動きに敢然と反旗を翻すべきでしょう。SIMに絡んで二度までも国民を愚弄しようとしている事態に若者は本気で怒るべきではないでしょうか。心からそう思います。

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塩原 俊彦

(21世紀龍馬会代表)

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