AIとマッチングの話

AIとマッチングの話

 

暇なので、もう一つ、おもしろおかしい話を紹介してみよう。AIとマッチングの話である。

先日、高知にある城西館という、皇室御用達ホテルの1階にある喫茶店で食事をしていると、見合いが行われていた。どうやら双方とも匿名のまま、仲介人が二人を引き合わせ、相性をたしかめようという段取りらしい。いま世界では、AIを利用した「マッチング」が流行っている以上、ずいぶんと時代遅れな気がしないでもないが、AIを利用した「いかがわしい」マッチングよりも、こうした昔ながらのマッチングのほうが安全・確実なのかもしれない。

マッチングサービスの利用者にとっては、そのサービスの価格よりもむしろ、より自分に気の合う人物と出会えるかどうかが重要だ。つまり、価格よりもマッチングを可能にする情報量が重要になる。地球全体においてもっとも情報量の多い「出会い系サービス」を提供しているのは「ティンダー」(Tinder)だ。2018年8月段階で、380万人の有料会員をかかえており、同社から分岐した「バンブル」(Bumble)なども人気を集めている。他方、中国には、2015年に設立されたTantanというサイトがある。利用者は2000万人で、すでに1000万ものカップルを創出したと言われているほどだ。フェイスブックも、Secret Crushというサイトを使って、デートのマッチング・アプリに対抗しようとしている。

こうしたマッチングは映画やドラマをオンラインで提供しているNetflixのようなサービスでも重要だ。顧客の要望にマッチするようなコンテンツを豊富に備えていることが顧客獲得の重要な要素になるからである。同じく、多数の書籍などを提供するAmazonもマッチングが重要な顧客獲得手段となっている。

もう一つわかりやすい例を紹介したい。いまもウィンドーショッピングをする際、見えるのは衣料品などを身に着けたマネキンと価格表示のあるタグくらいだろう。この場合、商品そのものとその価格が購入するかどうかの重要な判断材料になる。ところが将来、ウィンドーにスマートフォンをかざすだけで、その商品に関するさまざまの情報(素材・縫製などの情報や、身につけたときの姿など)が得られるようになれば、価格そのものの判断基準としての価値が揺らぐことになるだろう。顧客にマッチングしているという印象に強く与えられれば、価格以上にそれが評価されて購買という「命がけの飛躍」に成功できるようになるはずだ。マッチングを支える情報量の多さ、データ蓄積が価格よりも重要になるに違いない。

こうしたマッチングに、AIがますます重要な役割を果たしつつある。人間がAIの判断に従属しかねない状況が迫っているとも言える。

 

より深刻な問題Grindr

ここで、中国ファーウェイ(Hauwei)の5G関連設備の購入禁止問題よりも深刻かもしれない問題として、ゲイのデートなど出会い系サイトを運営するグリンドル(Grindr)を中国のゲーム会社、北京崑崙テク(Beijing Kunlun Tech Co Ltd)が2016年から2018年の間に2回に分けて買収した問題を紹介したい。この投資は米国外国投資委員会(CFIUS)の審査なしに行われたとされている。北京崑崙の会長はゲームで巨万の富を築いた周亚辉(Yahui Zhou)は民間人だが、中国人がオーナーを務める会社がゲイの出会い系サイトを運営する会社を支配することで、個人の機密情報が中国政府の漏れる懸念が強まっている。ゲイ情報を使って、当該の米国人を脅して機密情報を得ることもできる。

中国企業の買収される以前の2015年には、グリンドル利用者がゲイの権利に反対する票を投じたノースダコタ州選出の共和党下院議員、ランディ・ボーニングがゲイであることを暴露する事件まで起きている。容易に想像できるのは、2014年に2100万人以上の旧・現政府職員と契約者の記録がハッカー(米国政府は背後に中国政府がいたと信じている)によって人事局から盗まれた事件が起きたから、この情報とグリンドルのデータを組み合わせて安全保障上重要な部署にいる職員を特定し、脅すことができるということだ。このため、米国政府は北京崑崙との間でグリンドルの支配を継続するかどうかについて協議に入っている。ほかにも2019年4月になって、CFIUSは同じ病気に苦しむ患者同士を結びつけるためのソーシャルネットワーク、ペイシェンツ・ライク・ミー(PatientsLikeMe)の親会社が中国のテンセント系列の健康データ分析会社のアイカーボンクス(iCarbonx)であることから、同社にPatientsLikeMeの支配持ち分を売却するように要請した。2017年にiCaenonxはPatientsLikeMeの支配持ち分を購入していた。2018年にもCFIUSはアリババ傘下のアント・フィナンシャル(Ant Financial)が12億ドルで買収しようとした資金移転会社、マネーグラム(MonyGram)の案件を安全保障上の理由でブロックしている。

米国当局は中国による対米投資自体を制限するだけでなく、その製品への規制も強化している。同当局者は、中国の無人機(ドローン)メーカー、DJIの製品が米国の重大インフラのデータを中国政府に送っているとの警告を2017年に発したほか、監視カメラとして使用される閉鎖回路テレビ(CCTV)のキットの世界最大のメーカーである、杭州を本拠地とするハイクジョン(Hikvision)が製造したカメラを米政府機関が使用することを禁止した。こうした動きを受けて、米国の巨大投資基金はハイクビジョン株を急遽、売却するなどの影響が広がっている。

ほかにも、中国企業はもはや目の敵にされている。2019年2月、中国の巨大メディア企業、バイトダンス(Bytedance)が提供している動画コミュニティ・アプリ、TikTokは13歳以下の利用者データを不法に集めたことを理由に米国で579万ドルの罰金を支払った。同年4月、インドの裁判所はTikTokが強姦を煽動したとして同アプリを禁止した。バングラデシュやインドネシアでも、同サイトがポルノを助長しているとして2018年に禁止措置がとられた。オーストラリアやインドの国防省は職員によるテンセントのメッセージ・アプリ、ウィチャットの利用を禁止している。インドの与党、インド人民党は2019年3月、バイトダンスのソーシャル・メディア・アップが選挙に干渉しているとして選挙委員会に苦情を申し立て、バイトダンスの情報収集サイトであるヒーロー(Helo)を禁止するよう求めた。中国との国境問題をかかえているインド政府は4月にはじまった下院議会の総選挙への干渉を強く警戒していたのである。2020年に総選挙を控えている台湾でも、中国政府による中国のネットフリックス(Netflix)と呼ばれている、バイドゥの動画共有サイト、アイチーイー(iQIYI, )を禁止しようという動きがある。

AIとマッチングの話から脱線しすぎたかもしれない。それでも、ある問題について深く考えるというのは、ここで示したように関連事項に肉迫しようと努力することなのだ。若い人々はこうした過程を大切にしてほしい。

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塩原 俊彦

(21世紀龍馬会代表)

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