情報開示の必要性:日本の閉鎖性

2020年7月6日付のニューヨークタイムズ電子版(https://www.nytimes.com/2020/07/06/us/ppp-small-business-loans.html)は、トランプ政権が新型コロナウイルスの流行による景気悪化への対策として、中小企業の浮揚を保つための6600億ドルのプログラムから融資を受け取った会社のうち、15万ドル以上の融資を受けた企業を公開したと伝えた。この情報公開によって、トランプ政権の支援の実態がより明確になった。

このプログラムは、従業員数500人以下の企業で、従業員の給与支払いを維持するために融資資金の大部分を使用するなど、一定の要件を満たす企業に融資提供するものだ。融資の86.5%が15万ドル以下であり、銀行はこのプログラムを通じて約490万件の融資を行い、その平均融資規模は10万7000ドルであった。Paycheck Protection Programと呼ばれるもので、レストラン、医療機関、カーディーラーがもっとも優先的に融資を得られる。4万以上のレストランが320億ドルほどの融資を得た。

 

トランプのやっていること

興味深いのは、こんな緊急支援においてもトランプ大統領がよからぬ動きをしていることだ。記事によると、「ワシントンのトランプ・インターナショナル・ホテルのレストラン「寿司中沢」が15万ドルから35万ドルの融資を受けた」という。シカゴの大統領のホテル内にあるヘアサロンも融資を受け取った。トランプが1990年代半ばから所有していたニューヨーク証券取引所近くのオフィスビル内の20以上の企業も、総額2000万ドル以上の融資を受けていたと報じられている。融資を受けた企業の中には、法律事務所や金融サービス会社、非営利団体などが含まれていた。

融資先の中には、大統領の義理の息子で上級顧問のジャレッド・クシュナー氏とつながっている者もいる。データによると、35万ドルから100万ドルの融資が、クシュナー一家のウェストミンスターホテルがあるN.J.州リビングストンの土地を所有する事業体「エスプラネード・リビングストン」に行われていたという。

他方で、ワシントンポスト電子版(https://www.washingtonpost.com/news/powerpost/paloma/the-technology-202/2020/07/07/the-technology-202-many-tech-companies-received-large-coronavirus-relief-loans/5f03c95e88e0fa7b44f6eeb1/)は、ベンチャーキャピタルの資金供給を得ている有名なハイテク企業もこの支援を受けていたとして批判している。ベンチャーキャピタリストたちは、パンデミックへの対応を支援できる技術を構築するためには、業界が融資を必要としていると主張、これにロビイストが加わって最終的に多くのハイテク企業がプログラムの申請を進めたのだという。不可思議なのは、Foundation CapitalやIndex Venturesなどの大手ベンチャーキャピタル数社が融資リストに含まれていたことだ。この2企業は融資を申請したことはないとしており、混乱が生じている。

 

日本の閉鎖性

ともかくも、米国政府がしぶしぶ行った情報開示にみられるように、実態が明らかになれば、行政がどんな仕事を行っているかがわかる。トランプ政権の内情も透けて見えてくる。

ところが、日本はどうだろうか。緊急支援の中身は厚いベールに覆われており、安倍晋三首相およびその取り巻き、さらに自民党幹部らがどんなおかしなことをやっているかがまったくわからない。行政を実際に行う官僚は自らの仕事に自信があるのであれば、米国と同じように、せめて大口支援については明確に開示すべきではないか。

具体例をあげよう。厚生労働省は所管する「雇用調整助成金」について、その支給実績については公表している。といっても、あくまで全体の数値だけであり、個別案件についてはまったく明らかにされていない。7月3日時点(週報)(https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyou/kyufukin/pageL07.html#numbers)によると、6月27日から7月3日までの累積支給申請件数は36万1185件、累積支給決定件数は23万2531件、支給決定額の累計は1809億9300万円だった。

雇用調整助成金は企業が休業中の従業員に支給する休業手当の一部を国が助成する制度である。中小企業だけでなく大企業も対象となっている。だからこそ、Dishonest Abeや自民党幹部に近い大企業に便宜供与がはかられている可能性を排除できない。ゆえに、少なくとも大企業については雇用調整助成金が何という大企業にいくら支給されたのかを公表しなければならない。国民の税金を直接使った支援なのだから、この開示は当然なのだ。

ちなみに、この雇用調整助成金の支給はまったくうまくいっていない。その点については、「雇用調整助成金」ほとんど使えない!『NEWS23』小川彩佳が報じた「制度と実際との乖離」(https://news.yahoo.co.jp/byline/mizushimahiroaki/20200429-00175816/)に詳しいから、このサイトにぜひアクセスしてほしい。

 

持続化給付金も不明朗

今度は経済産業省が所管する「持続化給付金」をみてみよう。経産省は「持続化給付金の申請と給付について」(https://www.meti.go.jp/covid-19/jizokuka-info.html)において、雇用調整助成金と同じように、全体の数値だけを公表している。給付金は6月22日までに、約165万件の中小企業・個人事業者に支給し、総額は約2兆2200億円になるというのだが、これほどの巨額資金がいったいどこにどう流れたについてはまったく明らかにしていない。米国の事例から類推すると、政治家が絡んで、実態のよくわからない中小企業・個人事業者に給付された可能性が多いにある。

 

会計検査院を増強せよ

経産省のサイト、経済産業省の支援策(2020年7月7日時点)(https://www.meti.go.jp/covid-19/index.html#01)をみると、「新型コロナウイルス(COVID-19)による企業への影響を緩和し、企業を支援するための施策をご案内します」として、下記のような支援がある。

これほどの支援がある以上、信頼のおけない官僚や政治家が結託したり、あるいは政治家の脅しに官僚が屈服したりして、多数の不正が行われている可能性が高い。経産省だけでなく、各省でも似たり寄ったりに違いない。

そうした事態を想定するならば、もはやもっとも重要なのは会計検査院の人数を増やし、徹底的に調査する態勢を整備することではないか。同時に、税金を投じる支援のすべてについて例外なしに情報開示する制度をつくる必要がある。

はっきり言って、政治家も官僚もまったく信頼できないこの国において必要なことは、「性悪説」に基づいて、こいつらの不正を徹底して取り締まることくらいしか残されていないのではないか。

もちろん、正論を言えば、性善説に基づく信頼こそ、経済学で言う「ソーシャル・キャピタル」を培い、それが国民経済発展の礎をなすのだが、日本ではもはやそんな段階にはない。もはや「革命」によって、既得権をもった連中を成敗する必要がある、とまで思えてくる。

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塩原 俊彦

(21世紀龍馬会代表)

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