講演 『君たちはどう騙されてきたのか』:リテラシー教育の必要性(ウクライナ戦争報道を題材にして)

12月3日、「『君たちはどう騙されてきたのか』:リテラシー教育の必要性(ウクライナ戦争報道を題材にして)」という講演を法政大学で行う。ビデオでも見られるらしいので、その場に来なくても、講演内容を知ることができるらしい。関心のある方は、https://x.gd/Gpd06にアクセスしてほしい。案内については、https://tokyo-yuiken.jimdofree.com/%E8%AC%9B%E6%BC%94%E4%BC%9A-%E3%82%B7%E3%83%B3%E3%83%9D%E3%82%B8%E3%82%A6%E3%83%A0/にアクセスしてほしい。

『ウクライナ戦争3部作』の最後、『復讐としてのウクライナ戦争 戦争の哲学:それぞれの正義と復讐・報復・制裁』を脱稿したので、ようやくこの講演に向けた準備にとりかかっている。そこで、この場でわたしが話したくても、たぶん、時間の関係で話さないかもしれないことを中心に、「君たちはどう騙されてきたのか」についてまとめてみたいと思う。

 

==========第一部==========

「ニッポン不全」

わたしは「論座」編集部と喧嘩して、連載を止めるまで、23回にわたって「ニッポン不全」というタイトルでニッポンの病理について考えてきた。そのなかで、日本人の多くが「現実」を直視しないマスメディアを通じた過剰な同調圧力のもとで、大いに騙されている問題を剔出しようとしてきたつもりだ。

そこで留意したのは、「現実」を直視せず、いわゆる「確証バイアス」(confirmation bias)によって、「だまされやすく、信じたがるバイアス」が働いて現状を肯定的にとらえて満足してしまうという人間の特徴についてもっと深く理解しなければならないということだった。

「ハロー効果」(Halo effect)にも注意しなければならない。いわゆる「光輪」「後光」効果というのは、ある対象を評価する時に、それがもつ顕著な特徴に引きずられて他の特徴についての評価が歪められる現象である。「専門家」なる、わけのわからない者、肩書きや社会的属性に惑わされて、彼らの言説を実に簡単に信じてしまうといったことが起きる。日本人の場合、年齢や学歴といったものに「弱い」人々がこのハロー効果のもとで、結果として騙されることになる。

もう一つ、「感情ヒューリスティック」(affect heuristic)にも注意を払う必要がある。これは、好き嫌いによって判断が決まってしまう現象を意味している。たしかに、「好き嫌い人事」なるものが日本では横行しているとの印象を強くもつ、自分自身の体験として。この際、「妬み」「嫉み」といった感情が強く働いているように思われる。日本の「男社会」にあっては、たぶん、この「妬み」「嫉み」に影響された感情ヒューリスティックが強く働いているのではないか、とわたしには思われる。

嫉妬深いのは、女よりも男ではないか、日本の場合。まあ、関心のある人はここで紹介した三つの心理的現象(確証バイアス、ハロー効果、感情ヒューリスティック)の各国比較について考えてみてほしい。いい本があれば、ぜひとも読んでみたい。なお、ほかにも「アンカリング効果」(anchoring effect)、「利用可能性ヒューリスティック」(availability heuristic)などの心理学的現象もある。詳しくは、ダニエル・カーネマン著『ファスト&スロー〈上下〉』を参照。

 

マスメディアに三つの心理的現象をあてはめると

三つの心理的現象(確証バイアス、ハロー効果、感情ヒューリスティック)をマスメディアにあてはめて考えてみよう。

・信じやすさを問題にする確証バイアスは、NHKがより「真実」を報道しているといった偏見があることがわかる(Digital News Report 2022, Reuters Institute, https://reutersinstitute.politics.ox.ac.uk/sites/default/files/2022-06/Digital_News-Report_2022.pdf)。

・権威主義に影響されるハロー効果は、朝日新聞、岩波書店の優位をもたらしてきたが、いまはまったく崩れている。

・好き嫌いにかかわる感情ヒューリスティックからみると、いまは「朝日嫌い」が急増している。

 

Digital News Report 2022が教える日本の問題点

・NHKの優位⇒確証バイアス、ハロー効果、感情ヒューリスティックを利用(しかし、岩田明子のような安倍晋三シンパの重用といった露骨な政治傾斜)

・Yahoo Newsの圧倒的優位⇒短絡思考 (親子上場という傍若無人を行う孫正義を批判せよ)

 

「思考」訓練の重要性

ここまでの記述を前提にすると、何といっても、「思考」訓練が必要だと痛感する。ハンナ・アーレントは『責任と判断』のなかで、「思考しないことの危険性」について書いている(325頁)。

 

「人々を吟味の危険から隔離してしまうと、それがどんなものであっても、その時代にその社会で定められた行動規則にしたがうように教えることになります。」

 

新しい決まりを提示しさえすれば、強制も説得も不要となり、短期間での全体主義支配の実現しまうという。さらに、アーレントはつぎのようにまとめている(343頁)。

 

「思考とは、沈黙の対話における(一人のうちの二人)であり、これが意識に与えられたわたしたちの良心を生みだします。そして思考が解放する効果を発揮するとすれば、判断力はその副産物として、これを〈現れの世界〉のうちで輝かせます。この〈現れの世界〉ではわたしは孤独であることはなく、思考するにはいつでも忙しすぎるのです。思考の〈風〉のありかをはっきりと示してくれるのは知識ではありません。善と悪を区別し、美と醜を区別する能力として、その力を示すのです。そして少なくともわたしにとっては、思考は危機の稀な瞬間において、破滅的な結果を避けるために役立つものなのです。」

 

ここで、「システム2」思考の重要性について思い出してほしい。このサイトでは、2019年9月29日付で、「「システム2」思考の重要性」(https://www.21cryomakai.com/%e9%9b%91%e6%84%9f/817/)をアップロードしておいた。ここでは、繰り返さないから、どうかもう一度、この論考を熟読してほしい。ただ、ごく簡単に要点だけ書いておこう。

「システム1は、印象、直感、意志、感触を絶えず生み出してはシステム2に供給する。システム2がゴーサインを出せば、印象や直感は確信に変わり、衝動は意志的な行動に変わる。万事とくに問題のない場合、つまりだいたいの場合は、システム1から送られてきた材料をシステム2は無修正かわずかな修正を加えただけで受け入れる。そこで、あなたは、自分の印象はおおむね正しいと信じ、自分がいいと思うとおりに行動する」というのが大雑把な理解である。システム2は、「複雑な計算など頭を使わなければできない困難な知的活動にしかるべき注意を割り当てる」もので、その働きは、「代理、選択、集中などの主観的経験と関連づけられることが多い」とされている。できれば、システム2を活性化させて、「よく考える」ことが求められているのだ。

 

==========第二部==========

こうした「思考」訓練がまったく不足している日本では、過剰な同調性のもとで、無責任体制が広がっている。その結果として、情報操作(manipulation)によって簡単に騙されてしまいがちなのだ。

 

破産状態にあるニッポン経済

日本人の多くはこれまで、ニッポン経済がすでに破産状態にあることを知らなかった。最近の円安傾向によって、やや多くの人々がようやくニッポン経済の問題点に気づきつつあるように思える。

外国投資家は、日本政府が国内金利を引き上げられない状況にあることをよく知っている。金利を上げれば、国債価格が暴落し、これまで大量の国債を購入しつづけてきた日本銀行が債務超過に陥るのは目に見えている。国債の元利払いのための国債費が急膨張することも確実だ。へたをすると、低い金利では国債を買い入れる投資家が見つからず、歳入資金が調達できず、財政破綻することも十分に予想できる。そうなれば、消費税率20%、年金支給額2割カットなど、まさに身を斬る改革が必至となる。こんな国家財政にしてしまったのは、あのDishonest Abeである。国民に平然と嘘をつきつづけ、それを批判できないくらいマスメディアを脅しまくってきた人物だ。

こうした状況を知る外国投資家は適度にドル高になった時点で、円を買い、国債を購入して、国債暴落前に売却し、円を売ってドルに換えようとするだろう。こうすれば、為替でも債券価格でも利益を得ることができる。ただし、債券価格の見通しも為替相場の先行きも確実ではないから、この二つの利益を得るのは簡単ではない。むしろ、ある局面で、大勝負に出ることで、巨額の利益をねらう投資家が現れるのではないか。

そのやり方は、先物で円を売り、債券先物で日本国債を買う取引を仕組むことだ。たとえば、半年後に1ドル=160円までの円売り取引を約束し、徹底的に円を売りまくる。当然、日本政府は円買い介入するだろうが、準備金にも限界があるから、円をいつまでも買い支えることはできない。半年後に160円を超す円安に振れることを前提に、日本国債を半年後に購入するとき、国債相場が暴落していれば、きわめて安い価格で日本国債を大量に仕入れることができる。その後、金利を引き上げざるをえなくなった日本の円は値を持ち直すだろうから、そこで国債を売り(このとき、国債価格が若干下がっている可能性がある)、それによって得た円をドルに換えればいい。もちろん、このやり方にも大きなリスクはつきまとっている。それでも、このまま破綻したニッポン経済が安閑としていられると見込みはゼロと言えるのではないか。

わたしでさえ1000万円以上の外貨預金を保有している。日本円を保有するくらいなら、外貨預金をしたほうがずっと安心していられる。

実質ゼロ金利がつづく日本では、預金金利ゼロ状態によって資産をもつ者が大きな犠牲を払ってきた。ゆえに、大金持ちは資産を海外に移転させてきたし、その動きはいまでもつづいている。これは、『復讐としてのウクライナ戦争』においても論じている、「属地主義」から「属人主義」への移行の必要性を高めている。それにもかかわらず、日本政府はこうした抜本的な問題に対してまったく手を打とうとしていない。わたしからみると、本当に唾棄すべき怠惰な政府なのだ。その背後には、世襲政治家の怠慢もある。愚かなマスメディアと御用学者という絶望的な構造が改革を回避させている。

 

騙されているのはニッポン経済についてだけではない。ウクライナ戦争をめぐる報道でも、日本国民は騙されている。それについては、「ウクライナ戦争3部作」を読んでもらえばすむだろう。その話は講演でのべることにしよう。

 

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塩原 俊彦

(21世紀龍馬会代表)

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