ウクライナの選挙をめぐって:民主主義を無視したウクライナを批判できないのはなぜ?

拙著『知られざる地政学』を脱稿したことで、日本のマスメディア報道をみる機会が少しだけ生まれた。そこで、つくづくと感じるのは、バカばかりの報道が日本全体をダメにしているということだ。

2023年8月18日、讀賣新聞だけが「ウクライナ政府は17日、昨年2月のロシアによる侵略開始を受けて出されている戒厳令と総動員令について、11月15日まで90日間の延長を決めた」と適時に報道した。「延長は8回目で、最高会議(議会)が7月に承認した。ウォロディミル・ゼレンスキー大統領が17日に法令に署名した。戒厳令下で選挙の実施は認められておらず、10月に予定されていた最高会議選挙は行われないことになる」と書いている。産経新聞は8月19日になって同種の記事を報道した。

ほかの報道機関は何をやっているのか。何が大切な問題なのかを多くの日本の報道機関はまったく理解していないのだ。

 

選挙回避で権力保持

丁寧に説明してみよう。2023年7月26日、ヴォロディミル・ゼレンスキー大統領は、戒厳令と総動員をさらに90日間延長する政令を承認するようヴェルホフナ議会に提案する。7月27日、議会は二つの法案(戒厳令延長法案総動員延長法案を参照)を承認した。そして、8月17日、ゼレンスキーはこの二つの法案に署名するのである。こうして、戒厳令と動員は90日間、すなわち2023年11月15日まで延長された。これは本格的侵攻開始以来8回目の延長である

ウクライナ憲法83条の4項目目には、「戒厳令中または非常事態中にウクライナ・ヴェルホヴナ・ラーダ(議会)の任期が満了した場合、その権限は、戒厳令または非常事態の解除後に選出されたウクライナ・ヴェルホヴナ・ラーダの最初の会議の日まで延長される」と規定されているから、今回の延長によって、2023年10月23日に予定されていたウクライナ最高会議選挙は実施されないことになったといってもいい。

重要なことは、戦争継続による戒厳令・総動員の延長によって、ゼレンスキーが自らの与党「人民のしもべ」の現有勢力を維持し、権力を保持できることである。拙著『プーチン3.0』や『ウクライナ3.0』で指摘したように、ゼレンスキーは戦争継続によって自らの権力の維持・拡大をはかり、多くのウクライナ国民の死を招いているのだ。

民主主義を標榜するのであれば、選挙を実施するために和平にもち込む方策はないのか。ゼレンスキーは何か検討したことがあるのだろうか。多くの人命を失っても、欧米諸国から武器を供給してもらって戦争を継続するほうが自らの権力保持に役立つという発想自体、大いに批判しなければならない。

 

「選挙するならカネをくれ」というゼレンスキーの品性下劣さ

戦争を継続しても、成果は遅々としてあがらず、ウクライナ国民にも被害が広がっている。加えて、腐敗の蔓延で、大量の支援がどう使われているかも不透明だ。だからこそ、ゼレンスキーは信じがたい要求をしている。

8月27日付のウクライナの報道によると、ゼレンスキーは「1+1」TVチャンネルとのインタビューで、リンジー・グラハム米上院議員(共和党)の言葉についてコメントし、「私はリンジーにこう言った:もし50億ドルを出す用意があるなら、予算から50億ドルだけ出すわけにはいかないから…。それは平時の選挙に必要な額だと思う」とのべた。これは、たとえ戒厳令下でもウクライナは2024年に選挙を実施すべきだというグラハム上院議員の意見に対して語ったもので、要するに「カネを寄こせ」といっていることになる。しかも、50億ドルという金額はまったく根拠のないものだ。

議員の任期は4年で、前回の選挙は2019年に実施された。そのときの予算計上額は19億5000万フリヴニャ(2019年の為替レートで約7800万ドル)にすぎない。ゼレンスキーなる人物の品性下劣なことがよくわかるだろう。

 

国防相の更迭の裏側

ついでに、9月3日、ゼレンスキーがオレクシー・レズニコフ国防相をルステム・ウメロフウクライナ国有財産基金理事長と交代させると発表したことについても書いておこう。

このサイトに「汚職まみれのウクライナ:ゼレンスキー政権の腐敗をなぜ報じない? 本当に情けない日本の報道」をアップロードしたのは2023年1月25日だ。そのなかで、レズニコフのひどさについては指摘しておいた。

今回の更迭は、先週、ウクライナを訪問した米国のジェイク・サリバン国家安全保障担当補佐官がウクライナの高官3人と会談した結果である。はっきりいえば、米国政府の要請によって今年1月時点で解任できなかったレズニコフを解任せよと米国がゼレンスキーに迫った結果である。1月にアップロードした記事に書いておいたように、ウクライナ国防省の腐敗は深刻であり、それを放置してきたレズニコフの責任は重大なのだ。といっても、こいつを駐英ウクライナ大使にするとの報道があるから、任命したゼレンスキーもレズニコフ本人もまった反省していないようにみえる。

 

腐敗まみれのウクライナ

こんな国に武器供与したり、財政支援したりしても、その一部は盗まれるだけなのである。にもかかわらず、ウクライナに支援をつづけられないからこそ、米国政府がゼレンスキーに命じたということになる。

それでも、ウクライナの「腐敗体質」はそう簡単に改善するとは思えない。何しろ、カネをもらって病気の診断書をつくって、戦争忌避者を多数出してきた国だ。少なくとも数千人におよぶ。そんな国の実態さえ報道しない米国や欧州、さらに日本のマスメディアは最低だと指摘しておこう。こちらも、相当に腐敗している。

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塩原 俊彦

(21世紀龍馬会代表)

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