北海道新聞記者の拘束について:日本政府なんか信用するな!

私は、2016年に『プーチン露大統領とその仲間たち : 私が「KGB」に拉致された背景』を上梓した。この拉致の話は、「論座」において、「ロシアのスパイのやり口」として公表したこともある。ただし、もうこの記事を読むことはできないので、ここでは、本の一部を紹介しよう。

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「 二〇一六年二月二〇日、モスクワ時間の午前一〇時四五分ころ、連邦移民局を名乗る私服警官三、四人に拉致された。モスクワの目抜き通り、トヴェリスカヤ通りから一本路地に入った場所である。一四日から滞在していたアパートの出入り口を出て、通訳をしてくれているロシア人と会った直後のことだ。

 「モスクワの連邦移民局の者だ」といいながら、身分証明書を示し、「パスポートを見せろ」と命令した。それを見て、筆者を確認すると、「移民法の関係で質問があるから連行する」とたたみかけた。もちろん、何のことやらまったくわからない。通訳と引き離されるのが怖かったから、抵抗した。ところが、「通訳は用意している」と話し、二人の私服警官に両脇を抱えられて無理やりワゴン車に押し込まれてしまう。

 ワゴン車のなかで、携帯電話は出せというから、素直に渡した。ワゴン車には、運転手、その右に警官一名。向い合わせの席に二人の私服警官、彼らの前に筆者ともっとも地位が高いとみられる警官が座った。土曜日であったせいもあって、ワゴン車は順調に南東に向かい、二〇分ほどで停車した。どうやらどこかの治安機関の建物のようだった。間口は狭いが、決して脇道ではなく、二車線の通りに面した場所だ。

 二階に上がると、まず小部屋があり、そこでオーバーコートを脱ぐようにいわれ、左手の部屋に通された。二重扉を開けると、そこは六畳ほどの部屋で、中央に一人の男、その向かって左手にもう一人の男がおり、手前に女性がいた。それに、中央の男の前に、もう一人若い男性がいた。どうやら彼が書記で、ここでの話を記録するらしい。

 

 「別件拘束」という手口

「ロシア語はわかるか」と、ロシア語で聞いてきた。「知らない」とのそぶりを見せると、通訳がいると説明し、女性が通訳をはじめた。最初の嫌疑はビジネスビザ取得に関する不正についてであった。だから、連邦移民法に違反するということが問題になったらしい。彼らは申請にある内容と、モスクワでの業務内容の齟齬を問題にした。

ところが、この通訳が筆者の言葉を正確に伝えていないことがすぐにわかった。「いったい、無理やりに拘束した法的根拠はなにか。わたしはプーチン大統領の主宰するヴァルダイクラブ(外国の学者やジャーナリストを中心に構成されるプーチンシンパを養成せんとする組織)の会員でプーチンと会食したことある」というと、彼女は前の発言だけを訳し、うしろの発言を無視した。そこで、「おい、なぜ正確に通訳しないのか」と、その女をにらみつけながら、筆者はどなった。

「あなたは、ロシア語はわからないといった。なぜ嘘をついた」と、今度は正面に座っていた四〇歳前後の男がどなりつけてきた。「いきなり拘束されて、無理やりこんな場所に拉致されて、本当のことを話すことなどできるものか」と、筆者は日本語でいった。「ロシア語は読めても、話したり聞いたりするのはうまくない」とつづけた。

緊迫した雰囲気のなかで、尋問がつづいた。モスクワでビジネスビザの発行を求める申請書に事実と異なる記述があることが問題になったのだ。ロシアに出向くとき、観光ビザかビジネスビザを取得しなければならない。筆者は仕事のためにもう十年以上、毎年、一、二回、ときに四回ほど、ロシアを訪問してきた。その際、いつもビジネスビザを取得してきたから、今回もビジネスビザを取得していた。

ビジネスビザの取得には、先方からの招待状が必要であり、その招待状が日本に届くのを待って日本にあるロシア領事館にビジネスビザを申請するという手順になる。招待状を発給する場合、ロシア企業はその発給に不熱心で時間がかかる。外国人を招聘すること自体、治安機関から目をつけられることになるから、避けたいのである。このため、日本のビジネスマンの多くは旅行代理店にビジネスビザ発給に伴う諸手続きを丸投げすることが広く慣行となっている。筆者もその慣行にしたがっていただけの話である。

PRATOSという会社が私を招待したことになっていたのだが、その業務内容が事実と異なっているというのだ。どうやら医療関係の仕事で招聘すると書いてあったようだ。筆者は日本の旅行代理店にビジネスビザの取得を丸投げしており、代理店が過去にどのようにビザを取得したのかはまったく知らない。だから、正直に事情を説明した。すると、その旅行代店の名前をいえという。

「大陸トラベル」という名前を明かすと、今度はその住所と電話番号をいえとたたみかけてきた。パソコンを調べる作業したが、どうも資料が見つからない。「この部屋でインターネットは使えるか」と尋ねると、「もういい」ということになった。

中央の男は、ビザ申請に法律違反が明らかになったから、筆者を国外退去の措置にして、一〇年間、ロシアへの入国を禁止することができるといい出した。「まあ、この程度であれば仕方ないか」と思ったが、つぎに意外な展開が待っていた。」

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先に紹介した「論座」の記事において、「⽇本国⺠を守らない⽇本政府」という見出しを立てて書いた内容をここで紹介しておこう。

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悪夢のような出来事からすでに4 年がたつ。ミリュチンなる⼈物に連絡をしたことは⼀度もない。先⽅からのコンタクトもない。帰国後、すぐに旅⾏代理店に連絡した。もうこれ以上、偽りの招待状を使ったビザ取得を取りやめるように懇請するためだ。

しかし、後⽇聞いた話では、この慣⾏はいまでも続いている。その結果、筆者と同じようにして「スパイになれ」と強制されかねない状況はいまも変わっていない。

注意喚起のために、筆者の経験したことを⽇本政府の然るべき⼈物に話そうと思った。しかし、2 0 1 6 年に拙著を刊⾏してからも、あるいは、2 0 1 7 年3 ⽉、ホテルオークラで⾏われた東京⻄ロータリークラブでの講演でこの話をしてからも、⽇本政府関係者からの⾳沙汰はまったくない。

つまり、⽇本国⺠を不当に拘束し、スパイに仕⽴てようとした事件に政府として無視を決め込んでいる。これが⽇本政府の実態だ。

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何が言いたいかというと、日本政府はこうした事件に遭遇した私に何の事情聴取もしなかった。もう丸10年を経ても、まったく音なしである。

先のロータリークラブでの講演後、外務省を辞めて弁護士となった方が近づいてきて、「仕事を増やしたくないのですよ」と教えてくれた。おそらく、この方の指摘通りなのだろう。

こんな経験をしているから、今回の北海道新聞記者の「拘束」について、少しだけ関心をもっている。だが、こんな経験からすると、日本政府に何かを求めたり、期待してみても、まったく無駄であると、私は思う。それが日本政府の実態なのだ。

 

 

 

 

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塩原 俊彦

(21世紀龍馬会代表)

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