ディスインフォメーション補論

ディスインフォメーション補論

2019年10月23日午前11時に、『論座』サイトに「情報操作 ディスインフォメーションの脅威」がアップロードされます。この「21世紀龍馬会」のサイトでは、もう何度もディスインフォメーションについて論じてきました。そうしたことを踏まえて、初心者でもわかりやすくディスインフォメーション(意図的で不正確な情報)について解説したものです。

言葉はあるイメージを明確に喚起させます。いわゆる「言分け」によって、人間は認識できるのです。たとえば、「ストレス」がいい例ですね。ストレスという言葉がなかった江戸時代や鎌倉時代にストレスがなかったかというと、そうではありません。その意味で、ディスインフォメーションなる意味をもった情報がごく最近生まれたかというとそうではありません。大切なことは、言葉の意味を知り、それを広義に、あるいは狭義に解釈しつつ、現実を見るための新たな視角を得ることです。だからこそ、ディスインフォメーションという言葉を知らない人はこの言葉の由来を含めて知ってほしいと思います。そうすれば、新たな視角、視線からの議論が可能になります。いわば、「システム1」ですませてきた軽薄な思考から「システム2」への転回が可能となるでしょう。

 

言論の自由とディスインフォメーション

いま米国でもっともホットな問題となっているのは、言論の自由とディスインフォメーションの取り扱いとのバランスです。2020年の大統領選を前にして、2016年の大統領選でみられたようなソーシャル・ネットワークを利用したディスインフォメーション工作に基づく特定候補者への「ミスリード」を繰り返さないための方策が問題になっているのです。

この議論のなかで矢面に立たされているのはフェイスブックです。そもそもファイスブックは「札付き」の会社でした。実は、2012 年8 月、連邦取引委員会(FTC)は、フェイスブックが繰り返し利用者の合意なしに情報を流出させているとの疑いからフェイスブックに対して、利用者の情報をシェアする前に利用者の合意を得なければならないとの合意に達していたのです。ゆえに、2016年の大統領選時のケンブリッジ大学のアレクサンドル・コーガンらが数百万人のプロファイルを得るためにフェイスブックと結託していた事件の前から、ファイスブックは広告収入を得るために顧客情報を蔑ろにしていたのです。一説には、ケンブリッジ・アナリティカは米国の共和党支持者名簿を作成すると同時に、投票者の行動を分析することのできるツールを発展させるために当初5000 万人以上のフェイスブックのプロファイルを入手したとみられていました。同社は米国大統領選だけでなく、英国のEU 離脱をめぐる国民投票においても一定の役割を果たしたのではないかと疑われています。

広告のために利用者の関心、活動、友人などの情報を集めようとしているのがフェイスブックやグーグルです。とくに問題となったのは、2018 年3 月17 日、ニューヨーク・タイムズとオブザーバーがフェイスブックの5000 万人もの利用者データの選挙転用スキャンダルを報道した事件でした。大富豪で共和党支持のロバート・マーサーのヘッジファンドおよびトランプ大統領の補佐官だったスティーヴ・バノンによって所有されていたケンブリッジ・アナリティカが2014 年はじめ、米国の個々の選挙民をプロファイリングすることのできるシステムを構築するために本人の承諾なしにその個人情報を利用していたことがわかったのです。各個人をターゲットにした政治的な宣伝をトランプ勝利のために行うためでした。フェイスブックはこの事実を知りながら、利用者に警告しなかったと言われています。マーク・ザッカーバーグCEO はすぐには誠意ある対応を示さず、最初に謝罪したのは3 月21 日です。その後、2018 年12 月19 日、首都ワシントンのコロンビア地区司法長官はプライバシー侵害でフェイスブックを提訴しました。

もう一つの問題は、フェイスブックは政治広告としてロシア側が関連するとみられる怪しげなアカウントを野放しにして、そこが起点となってディスインフォメーションが拡散するのを放置したことです。トランプ陣営を支援しようとしていたロシア側はディスインフォメーションの伝播によって、トランプ大統領の誕生を後押ししていたわけです。にもかかわらず、フェイスブックは見て見ぬふりをしていたのです。

 

フェイスブックの責任

フェイスブックのザッカーバーグCEOは2019年10月17日、ワシントンDCのジョージワシントン大学で35分間ほどの講演をしました。そのなかで、彼は言論の自由の重要性を指摘して、民間会社であるフェイスブックがそのサイトにアップロードされる情報を積極的に「検閲する」姿勢のないことを強調しました。ここで問題になっているのは、プラットフォームを提供している仲介者としてのフェイスブックの責任です。

この問題は、1996年制定のコミュニケーション品位法(Communications Decency Act, CDA)のセクション230にかかわっています(近く『論座』で論じますから、そちらを参照してください)。要するに、もう20年以上、フェイスブックなどは国内法で保護されてきたのです。プラットフォームを提供するだけの会社は、そこで交換される情報の中身にまでは責任を負わなくてもよかったのです。しかし、「性」にかかわる問題については、その免責が許されなくなりました。そして、さらに責任を問う声が高まりつつあるのです。

しかし、冷静に考えてみると、ディスインフォメーションを見つけ出して、こうした情報をソーシャル・ネットワークから排除するのは至難の業です。なぜなら、ディスインフォメーションを見分けること自体、きわめて難しいからです。おまけに、トランプ大統領自身の発言の数々がディスインフォメーションであるために、彼の毎日使っているツイッターを止められるかというと、それはできないでしょう。大統領である以上、「言論の自由」が尊重されるべきだからです。

 

難しいディスインフォメーション対策

こう考えると、ディスインフォメーション工作への備えをどうするべきかという問題はそう簡単に解決法を見出せそうにありません。ソーシャル・ネットワーク・サービスを提供する側が独断と偏見に基づいて、プラットフォーム上の情報監視を強化してその一部の情報を遮断することはできますが、AIを利用した自動監視システムのようなものでは迅速で的確な判断ができるとは思えません。ディスインフォメーションか否かの判断に政府が関与するようになると、既得権力者が圧倒的に優位に立って、不都合な情報を軒並みディスインフォメーションとみなして削除・ブロックさせる事態も考えられます。

いずれにしても、ディスインフォメーション対策を講じる必要はありそうです。今後、ますますディスインフォメーションによって情報を操作し、特定の政党や候補者を優遇したり、あるいは毀損したりして、投票活動に影響をおよぼそうとする動きが広がると予想されるからです。その意味では、高校や大学あたりでしっかりディスインフォメーション対策を教える必要があると感じています。といっても、その対策を収載した「教科書」そのものがそう簡単にできるとは思いませんが。

ただ、自らディスインフォメーションを流してきたDishonest Abeたる安倍晋三首相は、自らディスインフォメーションを流しているトランプと同じく、こうした対策には反対するでしょう。自らの影響力を削ぎかねないわけですから。

いずれにしても、日本はディスインフォメーションそのものについて知らなさすぎます。「情報革命」という21世紀の時代性に対する感性が鈍いのです。本当に困った事態ですね。

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塩原 俊彦

(21世紀龍馬会代表)

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