スターリンク、スターシールドをめぐる事態の真相:The Atlanticの優れた記事の紹介
今週読んだ記事のなかで、もっとも参考になったのは、The Atlanticが公表した記事「イーロン・マスクがウクライナに背を向けた経緯」(How Elon Musk Turned on Ukraine)であった。これを読めば、ウクライナ軍が利用してきた商用のスターリンクや、専用の軍事サービス「スターシールド」をめぐる出来事がよく理解できる。
商用のスターリンクを軍事用に利用していたウクライナ
まず、理解しなければならないのは、イーロン・マスクのスペースXの運営するスターリンクとウクライナにおけるその利用の変遷だ。The Atlanticの記事は、「戦争が始まった当初、マスクはウクライナの自衛を支援することに熱心だったようだ」とし、侵攻開始当初、ロシアがミサイル攻撃やサイバー兵器を用いて、ウクライナのデジタルインフラを破壊しようとしたのに対して、ウクライナの通信網を維持するため、マスクは病院、発電所、政府省庁、およびさまざまな人道支援活動に数千台のスターリンクアンテナを寄贈したという。
ところがまもなく、ウクライナ軍はこのサービスを利用してドローンを操縦し、戦場での通信を維持しはじめるようになる。このサービスは決定的な優位性をもたらした。ロシア軍はスターリンクにアクセスできず、その信号を妨害する手段もなかったため、ウクライナのドローンは戦場を縦横無尽に飛び回り、ロシア軍に爆弾を投下することができたのだ。
The Atlanticの記事によれば、2022年、こうした攻撃の映像がネット上で拡散し、テキサス州にあるスペースX本社に警戒感をもたらした。スペースXのチームがスターリンクを設計したのは、ハイキングコースや航行中の船など、ブロードバンドが利用できない場所で人々にインターネットアクセスを提供するためであり、戦争を行うためではなかったからである。マスク氏にも同じであった。同年9月、ウクライナ当局は彼に対し、黒海でスターリンクを稼働させるよう要請した。彼らは占領下のクリミア半島付近でロシア軍艦への奇襲攻撃にスターリンクを利用したいと考えていたのだ。マスクはこれを拒否した。「スターリンクは戦争に利用されることを想定してつくられたものではない」と語ったという。
「スターシールド」のスタート
2022年末、マスクは「スターシールド」と呼ばれるサービスの開始を発表する。これは軍事顧客専用のサービスであり、利用料金はスターリンクよりもはるかに高額だ。ウクライナの場合、米国政府がそのサービスの費用の多くを負担しており、マスクの会社に多額の臨時収入をもたらした。その見返りとして、国防総省はウクライナによる衛星へのアクセスに対してより強い統制権を得ている。これにより「マスクがスイッチを切ることを防げる」ことができたことになる。
しかし、概してウクライナ軍はスターシールドへの移行を行わなかった。同軍は、ウォルマートや世界中の小売店で入手可能な通常のスターリンクアンテナを使い続けた。その利用料金は月額わずか30ドルであるのに対し、スターシールドは最大2万5000ドルにも上る。スターリンクの利用規約の細則には、軍事目的での使用が禁止されている。しかし、マスクの会社はウクライナにおいてこの規則を適用しなかった。同社は、スターリンクは平和的な目的に限定されるという建前を維持しつつ、軍は主に米国の納税者が負担したスターシールドのアンテナに依存するという構図を保っていた。
だが、「現実は大きく異なっていた」とThe Atlanticは指摘している。ウクライナはあらゆる用途にスターリンクを利用していたのだ。ドローン、指揮統制、戦場での戦術通信などである。
米国政府は、ウクライナに提供した「スターシールド」端末の台数を公表していない。「しかし、ウクライナの当局者や専門家によると、それらは戦域にある全端末の1%未満に過ぎないという」、とThe Atlanticは書いている。残りは一般市場で購入された通常の「スターリンク」端末であり、そのなかにはポーランドやドイツの政府がウクライナ向けに一括購入した数千台も含まれている。公式には、これらは人道支援用とされるはずだったが、それらが軍に回されることは誰もが知っていたのである。
今年10月の出来事
紹介しているThe Atlanticの記事は、「10月11日、ウクライナ全土の軍将校たちに、大惨事に備えるよう促す機密メモが配布された」という出だしになっている。その週の初め、ドナルド・トランプは、ロシアに対する米国の制裁を緩和し、ロシア産ディーゼル燃料の購入を開始することを決定していた。ホワイトハウスの政策転換を踏まえ、このメモは、米国による新たな裏切り――ウクライナがドローン部隊の運用に利用している「スターリンク」衛星ネットワークへのアクセスが遮断されること――を予見していたという。
メモは、スターリンクの開発者であるイーロン・マスクがまもなくウクライナでのサービスを制限する可能性があるとして警告し、同技術の利用者に対し、「スターリンクに代わるあらゆる通信手段を待機状態――即座に使用できる状態に――に保ち、緊急時対応計画を策定する」よう促していた。その2日後、警告は現実のものとなりはじめる。戦域全域でスターリンクの通信が途絶え、ドローンが飛行不能となり、軍事作戦が停止したのだ。
そのメモは、今後さらに深刻な事態が訪れると予測していた。このメモは、「ナロドニー・スターリンク」(「人民のスターリンク」)と呼ばれる非政府組織(NGO)から発信されたもので、同組織はウクライナ軍がこの技術を入手・運用できるよう支援している。メモのなかで、同団体の創設者であるヴォロディミル・ステパネツは、マスクがサービスを制限しうるいくつかの方法を想定していた。最悪のシナリオである「完全なサービス停止」は、連鎖的な災害を招き、ロシアの戦争勝利につながる可能性さえある。ある米軍高官は、「スターリンクがなければ、戦争は停滞してしまうだろう」と語った。
不可思議なマスクのX投稿
10月24日にイーロン・マスクはXに不可思議な投稿をした。その記述はつぎの通りである。
「民間商用サービスである「スターリンク」を、人を殺害するための攻撃的なドローン攻撃に利用することは、これまで一度も認められたことがなく、また認めるべきでもない。
一方、「スターシールド」という別のシステムは、米国政府によって管理されている。彼らがどのような対応をとるかは、彼ら次第である。
ウクライナ軍はスターリンクの利用規約に違反し、人を殺害するための攻撃的なドローン攻撃に同サービスを利用した。その抜け穴は先週、塞がれた。
スターリンクは、少なくとも現時点では、妨害や破壊を受けることのない唯一のシステムであるため、ウクライナの防衛にとって依然として極めて重要である。もしスターリンクが停止されれば、ウクライナの最前線は即座に崩壊するだろう。これは脅しではなく、単なる事実の指摘に過ぎない。
また、戦争の初期段階において、他のあらゆる通信手段がロシアによって破壊または妨害されていたため、スターリンクはロシアによるウクライナ全土の制圧を防ぐ上できわめて重要な役割を果たした。
スペースXは、地球上のどの民間企業よりも、はるかに多くのことをウクライナ防衛のために成し遂げてきた。
とはいえ、終わりのない殺戮を煽り、紛争に対する現実的な解決策を何一つ提示しない、道徳的優越感を振りかざす邪悪な好戦主義者たちに対しては、私はただただ徹底的な軽蔑しか抱いていない。地獄で焼かれろ。」
この声明は、ウクライナの多くのスターリンク利用者を困惑させた。なぜなら、軍事利用者の場合、抜け穴は依然として存在しているようであり、サービスも稼働しているようだからである。つまり、スターリンクの軍事利用はなぜか可能となっているという。
おそらく、マスクはウクライナ側に対して、今度だけは見逃してやるが、次回のサービス停止はずっと長くつづくかもしれないし、スターシールドへの契約なしには利用そのものが完全に停止されると脅しているのかもしれない。
通信遮断を背景に、ウクライナとその同盟国に対し、通常のスターリンクではなく、はるかに高額な軍事用サービス「スターシールド」の利用料を支払わせるよう、マスクが仕向けているのではないかと推測することも可能だ。商用スターリンクの料金は端末1台あたり月額わずか30ドルであるのに対し、スターシールドは最大2万5000ドルにも上るのだから、マスクの商魂も理解できないではない。
もしSpaceXが通常の「スターリンク」の軍事利用禁止を厳格に遵守し始めた場合、ウクライナとその同盟国は、はるかに高額なサービスに移行するか、あるいは現時点では同等の規模で利用可能な代替通信手段を探すかのいずれかを選択せざるを得なくなる。
ただし、軍事用「スターシールド」は、本質的には「スターリンク」と同じ衛星であり、軍事目的に利用され、価格設定が異なるだけである。前者はジャミングされにくいといった特徴があるようだが、スターシールドの利用料の高額さに見合っているかどうかはわからない。
いずれにしても、The Atlanticの記事の記事を読めば、10月に起きたスターリンクをめぐる騒動の背景を多少なりとも理解できるだろう。



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