NYT「ウクライナをめぐる米ロ協議に、トランプの盟友絡みの石油取引が絡むようになった」を理解するために:ルクオイルをめぐる暗闘
NYTの10月3日付の記事「ウクライナをめぐる米ロ協議に、トランプ氏の盟友絡みの石油取引が絡むようになった」は特ダネである。トランプ政権下での利益相反問題を明示する内容になっている。その中心にあるのはロシアの石油会社ルクオイルの海外資産である。おそらく、この記事だけを読んでも、その内容を十分に理解できる者は少なくとも日本にはほとんどいないだろう。そこで、私の過去の論考を紹介しながら、解説をしてみたい。
連載(116)を読め!
2025年11月に公表した「知られざる地政学」と題した連載(116)「プーチン体制を支えるオリガルヒ:恣意的な企業支配の現状(上、下)において、ルクオイルの話を詳述したことがある。この内容を知らなければ、NYTの特ダネを理解することはできないだろう。
そこで、この連載を精読することを勧めたいところだが、ここでは大サービスとして、この内容を紹介しつつ、NYTの記事の内容につなげたい。
連載(116)では、つぎのように書いておいた。
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ルクオイルのアレクペロフ
石油会社ルクオイルの創設者であり、長年にわたりCEOを務めたヴァギト・アレクペロフもオリガルヒの一人である。彼は「特別軍事作戦」開始後、同社の取締役会として、「ウクライナで続く悲劇的な事態について懸念を表明し、この悲劇に巻き込まれたすべての人々に深い哀悼の意を表する」という声明を公表した。「我々は、武力紛争の早期終結を求め、交渉と外交手段による解決を全面的に支持する」という記述まであった。だが、同年4月、アレクペロフは英国の個人制裁により、ルクオイルのすべての役職を辞任する。
さらに、1994年から2022年8月までルクオイルの副社長を務め、同社の戦略開発・投資分析本部を統括し、同社のスポークスパーソンも務めていたレオニード・フェドゥンも6月にルクオイルを去る。退任後の5月4日付大統領令により、アレクペロフは「祖国への功労」第一級勲章を受章した。しかし、アレクペロフの誕生日である2022年9月1日、彼の長年の同僚で、ルクオイル取締役会のトップであったラヴィル・マガノフが、クレムリン病院の6階の窓から転落し、不可解な状況で死亡する。アレクペロフ退任後、大統領府の第一副長官セルゲイ・キリエンコの元同僚ヴァディム・ヴォロビヨフがCEOに就任した。だが、2025年1月に米国が発動した制裁措置などから、現在、CEO務めているのは、ロシアにおける石油・ガス生産担当副社長だったセルゲイ・コチュクロフだ。
これだけの激変があった以上、ルクオイルの株主構成に大きな変化があったことが予想される。たとえば、2022年6月27日付のThe Moscow Timesは、フェドゥン辞任を伝える記事のなかで、彼がルクオイル株の10.26%を保有し、アレクペロフが同社株の27.33%を保有していたと書いているが、同日付の「インターファクス」は、フェドゥンは直接または間接的に(家族信託や投資信託を通じて含む)ルクオイルの株式資本の9.32%を所有、あるいは受益者であった、と報じている。ただし、2024年のルクオイルの年次報告をみても、詳しい株主構成を確認することはできない。なお、2025年11月12日、プーチン大統領がクレムリンにカザフスタンのカシム・ジョマルト・トカエフ大統領を迎えた際、ロシア側代表団のなかにアレクペロフがいた。「イゴーリ・セーチンとヴァギト・アレクペロフは、打ちひしがれた様子はみられなかった」と「コメルサント」は報じている。
2024年11月9日付の「ウォール・ストリート・ジャーナル」が興味深い記事を公表した。ロシア当局は、国営の巨大企業ロスネフチが、ガスプロムの子会社であるガスプロム・ネフチと、ルクオイルを吸収合併する計画を進めているというのである。この計画は実現していないが、2022年後半以降、ルクオイルを国家支配のもとに置く計画が進んでいることは間違いないだろう(注1)。
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この注1を読めば、その後の展開がわかる。これも、以下に紹介してみよう。
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(注1)2025年10月22日、米財務省外国資産管理局(OFAC)は、ルクオイルとロスネフチにロシアの「和平プロセスへの真剣な関心の欠如」を理由に追加制裁を科すと発表した。これに伴って、ルクオイルの海外資産をどうするかがいま現在、検討されている。当初、製油所、パイプライン、ターミナル、燃料運搬船などの資産を所有する国際的なエネルギー企業Gunvor(2014年まで、Gunvorの共同所有者はゲンナジ・ティムチェンコだったが、彼は米国による制裁措置が発動される前日に、Gunvorの株式43.5%を、同社のもう1人の大株主であるトルビョン・トンクヴィストに売却した。その結果、トンクヴィストは85%以上の株式を取得、現在、取締役会議長を務めている)がルクオイル・インターナショナルGmbH(同グループの海外資産を所有)の買収を提案したが、11月7日、米財務省がウクライナでの紛争が終結するまでGunvorに事業ライセンスを発行しないと発表した。このため、Gunvorは買収提案を取り下げた。
ルクオイルとその六つの子会社は、もっとも厳しい制限を課す「特別指定国民およびブロック指定人物」(SDN)リストに掲載された。これらの企業との取引は11月21日までに完了しなければならない。そうしなければ、取引企業は米ドルの使用や米国内でのビジネス、米国人とのビジネスが禁じられる。
Gunvorが買収していれば、ルクオイル・インターナショナル(2023年末時点での資産簿価は191億4000万ユーロ)を大幅に安い価格で買い取れたかもしれない。しかし、これができなくなったことで、ルクオイルはさらなる値引きをして資産の売却先を短時間に探す必要に迫られている。
ルクオイルが関与している上流の海外プロジェクトには、アゼルバイジャンのシャー・デニズ・ガス・コンデンセート油田(シェア19.99%)、カザフスタンのカラチャガナク油田とテンギズ油田・ガス田(13.5%と5%)、ウズベキスタンのカンディム・ハウザク・シャディ油田とギサール油田(90%と100%)がある。その他、イラクのWest Qurna-2とEridu石油プロジェクト(それぞれ75%と60%)、UAEのGhasha石油・ガスプロジェクト(10%)、エジプトのWEEM、WEEM Extension、Meleihaプロジェクト(50%、50%、24%)などがある。さらに、ルクオイルはイタリアのEniとともにメキシコの複数の石油鉱区を開発中であり、メキシコ企業とともにさらに二つの鉱区を開発中である。アフリカでは、コンゴ共和国、カメルーン、ガーナ、ナイジェリアのプロジェクトに参加している。
欧州では、ルクオイルは貿易部門リタスコを通じてルーマニアとブルガリアに二つの製油所を所有している(総精製能力は年間約1150万トン)。また、オランダの製油所にも45%の出資をしているほか、欧州各国と米国にガソリンスタンドのネットワークを持っている。ルクオイルはカスピ海パイプライン・コンソーシアム(CPC)の株主でもあるが、このプロジェクトとカザフスタンのテンギズ油田については、米財務省が例外を認めた。
いまのところ、これだけの海外資産を短期間に売却するのは不可能な情勢だ。さらに、ルクオイルがGunvorの資産売却で得た資金を受け取れるのか、それとも特別口座に凍結されるのかはまだわからない。他方で、ウクライナ戦争の和解が成立すれば、ルクオイルとロスネフチに対する制裁は解除されるだろうとの思惑から、資産売却を急がないとの見方もある。
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NYTの説明
ここまで理解できれば、NYTの特ダネをはじめて理解できるようになるはずだ。注1に書いたように、Gunvorによるルクオイル・インターナショナルGmbH(ルコイル・グループの国際資産を保有するPJSC「ルクオイル」の100%子会社)買収提案は2025年11月、米財務省がウクライナでの紛争が終結するまでGunvorに事業ライセンスを発行しないと発表した結果、Gunvorは買収提案を取り下げた。
その後、とうなったのかというと、ルクオイルは2026年1月、米国の投資会社カーライルと、ルクオイル・インターナショナルの売却に関する合意書に署名したと発表した。ところが、「ここ数カ月、カーライルの買収提案に対する米当局の承認が停滞するなか、別のグループが有力な入札者として浮上した」、とNYTは書いている。それは、ドナルド・トランプ大統領を支持する億万長者の投資家トッド・ボーリーが率いるグループで、中東や米国政府内部の有力者たちも名を連ねているという。このパートナーシップの構成員については、「米国政府と湾岸諸国の億万長者たちが、トッド・ボーリーによるルコイル資産の買収提案を支持」という「フィナンシャル・タイムズ」の記事に詳しい。
NYTによれば、ボーリーはロサンゼルス・ドジャースの共同オーナーであり、2025年12月にはトランプ支持の政治委員会「MAGA Inc.」に100万ドルを寄付した。また、自身の投資会社であるエルドリッジ・インダストリーズを通じて、トランプの就任式にさらに100万ドルを寄付したという。
NYTのさらなる説明
NYTによれば、米国政府は、海外のプロジェクトへの投資や融資を行う機関である米国国際開発金融公社(DFC)を通じて、この取引に参画している。DFCの担当者は声明のなかで、ルクオイル社とのこの潜在的な取引について、「米国の経済安全保障を強化し、米国の外交政策を推進し、一般の米国人のエネルギー価格を引き下げるというトランプ政権の公約を前進させるものとなるだろう」とのべた、とNYTは記している。
そのうえで、「しかし、これは純粋に米国企業による買収とはならない」という。なぜなら主要株主が米国企業ではないからである。主要な株主の一つは、カタールを拠点とする複合企業となる見込みで、同社はムタズ・アル・カイヤットとその弟ラメズ・アル・カイヤットが支配している。両者は2025年のトランプ氏の就任式に出席したほか、その後、クシュナーとその妻であるトランプの娘の一人、イヴァンカ・トランプと提携し、アルバニア南部における数十億ドル規模の高級ホテル・リゾートプロジェクトの資金調達を支援している。シリアで生まれ、シリア内戦中にカタールへ移住した億万長者のカイヤット兄弟はここ数年、シリア、 リビア、イラクにおける石油産業の資産や計画中のプロジェクトを次々と手中に収めはじめている。
もう一つの主要株主は、アブダビを拠点とする投資ファンドで、アラブ首長国連邦(UAE)の最高国家安全保障顧問であるシェイク・タフヌーン・ビン・ザーイド・アル・ナヒヤーンが支配している。彼は別のファンドも支配しており、そのファンドは、スティーブ・ウィトコフ中東担当特使の息子が一部を運営しているトランプ家の暗号通貨企業「ワールド・リバティ」の大口株式を取得した、こうNYTは書いている。
別の情報に基づいて、この説明を補足しておきたい。ここで「ワールド・リバティ」とされているのは、「ワールド・リバティ・ファイナンシャル」(WLF)のことであり、同社は、一連のAIモデルへのアクセスを提供する香港を拠点とする企業「ワールドクロー」(WorldClaw)と提携関係にある。顧客は、WLFのトークンである「USD1」を使用して、アクセス料金を支払うことができる。ワールドクローは、米国政府が国家安全保障上の懸念から問題視している中国企業が開発したモデルへのアクセスを提供している(ロイター通信を参照)。
さらに、WLFは、トランプの大統領就任直前、アラブ首長国連邦(UAE)と関係のある投資家に対し、多額の株式を売却した。UAEの国家安全保障顧問であり、UAEに拠点を置くAI企業G42の会長でもある、前述したシェイク・タフヌーン・ビン・ザーイド・アル・ナヒヤーンが、この買収に関与していたという。
なお、中東担当特使のスティーブ・ウィトコフはWLFの共同創業者であり、トランプの息子たちも同社に関与している。同社は昨年、トランプに7億9900万ドルの収益をもたらしたが、「その一因は、2025年にシェイクの関連会社が20億ドル相当の追加の暗号通貨を購入したことにある」、とNYTは記している。ウィトコフ自身はWLFの持分を売却したと、彼に近い人物が語ったという。
加えて、シェイクはまた、ルネート(Lunate)と呼ばれるアブダビの投資ファンドの監督も支援している。同ファンドは、トランプの第1期大統領任期終了後にホワイトハウスを去ったクシュナーが設立したプライベート・エクイティ企業の最大株主の一つである。つまり、シェイクは事実上、クシュナーのビジネスパートナーでもあるということになる。
NYTの報道が事実であれば、トランプ政権内でいかに「ビジネス」が優先されているかがよくわかる。そして、そうした「ビジネス」が対ロ外交などに影響をおよぼしていると考えることができる。



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