防衛装備品の会計処理問題

2023年6月21日、ようやく400字換算で800枚を超える次回作『新しい地政学の構築』(仮題)が完成した。とはいえ、これはあくまで総論部分であり、これから各論を書かなければならない。おそらくその作業に2~3カ月くらいかかるだろう。そうなると、ますますこのサイトにアップロードできなくなってしまう。そこで、今回は6月22日に読んだ気になる記事について一つだけ紹介することで、このサイトにときどきアクセスしていただいているみなさんの期待に一部だけ応えることにしたい。

 

防衛装備品の会計評価

2023年6月21日付の「ワシントン・ポスト」の記事「62億ドルの会計ミスのおかげで、米国はウクライナにさらなる援助を送ることができる」は興味深い。まずは、その内容から紹介したい。

国防総省の報道官によれば、2022会計年度には26億ドル、2023会計年度には36億ドルの計算ミスがあったというのだ。かなりのケースで、サービス部門は正味帳簿価額ではなく、交換費用を使用し、それによって米国の在庫から引き出され、ウクライナに提供された機器の価値を過大評価していたと書かれている。

しかし、この説明では、なぜ合計8700億円前後の金額を間違えたのかという理由を理解することはできない。むしろ、「ピュー・リサーチ・センターが今月実施した調査では、共和党員と共和党寄りの無党派層の44%が、米国はウクライナに援助を与えすぎていると回答し、ロシアの侵攻の翌月から35ポイント上昇した」と記事が指摘している事実を考慮して、これ以上の金額ベースの軍事支援が難しいので、ウクライナに支援してきた防衛装備品の会計評価を間違っていたとして、既存の枠内で、さらなる武器支援を実行しようとしているのではないかと疑われる。

ほかに、責任の所在という問題もある。どの部署でだれが間違えたのかを調査することはもちろん、間違えた本人、その監督責任者の責任を追及し、処分することはもちろん、再発防止が課題となる。しかし、こうした問題について、記事は何も伝えていない。おそらく、日本の記者クラブと同じく、国防総省にいる記者は基本的に国防総省と「癒着」しており、この問題を深く追求しようとはしないのだろう。だが、国民の税金によって国防総省に蓄積されてきた防衛装備品をウクライナ側に引き渡す際、その評価をどうするかは国民の税金の使い道がどうであったかを示すきわめて重要な問題である。しかも、その間違いが8700億円前後の巨額である以上、徹底追及するのが当然であろう。だが、どうやらいまの米国はそんなことすらできない「体たらく」の国家となっているように思われる。

 

日本にある同じ問題

当然、防衛装備品の会計処理や会計評価の問題は日本にも存在する。今回の問題をきっかけに検索エンジンを使って調べてみると、すぐに小川雅弘という人が『大阪経大論集』に「SNA方式における兵器(防衛装備品)」という論文を公表していることがわかる。米軍には、Military Equipment Valuation(MEV)なるものがあることもわかる。関心のある方は読んでみてほしい。

日本では、6月、「防衛省が調達する装備品等の開発及び生産のための基盤の強化に関する法律」が制定された。防衛装備品の会計処理方法が問題になったわけではない。むしろ、「ウクライナへの装備品等の提供について」という防衛省のサイトをみても、その提供された装備品の価額が公表されていないことに大きな懸念をもつ。

日本における会計処理は大丈夫なのだろうか。大いに疑問だ。そして、国会議員がここで問題にしているようなことに関心をもち、国会の場で厳しく防衛省を追及しているとも思えない。不勉強な人たちばかりだから。このサイトや「独立言論フォーラム」で公表している私の論考くらいは必読だろう。

私は、防衛装備品をリースにすることで、防衛費を節約できると考えてきた。そんな私からみると、防衛省の「金遣い」は放漫そのものである。日本も米国も、議員が「アホ」だから、税金の無駄遣いを放置しているのだ。

ついでに、世界の武器の環境影響評価を行うべきであるとも考えてきたと書いておこう。防衛装備品だけを環境影響評価の埒外に置く理由があるのなら、教えてほしい。もう10年以上前、ロシア人の軍事問題研究者と話していて、彼もまた私と同じ考えだった。

 

科学と軍事の問題

書き出しでふれたように、総論としての『新しい地政学の構築』を書き上げたばかりだが、そのなかでも「科学と軍事の問題」について分析している。いくつかの論点にわけて考察しているのだが、そこで強く感じるのは軍事を埒外に置く「いんちき」についてである。たとえば、いま騒ぎになっている「生成AI」について、著作権の侵害であるとか、学生にレポートを書かせていいのか、といった些末な問題ばかりが取り上げられている。

だが、問題の核心は「AIの軍事利用」にあるのであり、「キラーロボット」開発にある。こんなことも知らずに、あるいは、報道しようともしない、「アホ」ばかりが世界中のマスメディアで働いているのだ。本当に「まずい」状況にある。

こんな危惧から、『潮』に「生成AIをめぐる規制の裏事情」なる拙稿を今日から書き始めようと思っている。この原稿を書いたうえで、各論に取り組むことにしたい。

 

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塩原 俊彦

(21世紀龍馬会代表)

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